《渡哲也さん、10日に肺炎で死去していた》
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また昭和の俳優が旅立った。ご冥福を祈りたい。
レイバンのサングラスのイメージが強過ぎて。裕次郎の弟分で、軍団を率いていても、高校の番長連合のOB会のようだった。昭和臭の強い人でしたね。代表作と言っても、「仮面ライダー」に毛の生えた程度の「西部警察」では、少しさみしい。渡さん自体、演技というほど演じていなかったしね。
渡さんは、俳優としてよりも人として大きな人物だった。脚本家の倉本聰さんも、著書の『テレビの国から』(産経新聞出版)の中で《僕は渡を本当に見事な男だと思っていたし、その思いは今もまったく変わりません。》と言っているくらいだ。
渡さんはかなり以前から体調がよくなかった。倉本脚本の『勝海舟』を途中降板したこともあった。その後、気のおけない飲み友だちとして渡さんは倉本さんに「大間のマグロ漁の話をやりたいから本を書いてくれ」と言ってきそうなのだが、すでに渡さんの病気がかなり悪化していて、そのことを知っている倉本さんは「渡の身体に負担をかけるような漁師のドラマは書けない」と断った。
それ以来、絶縁しているとのことだが、それでも《渡とはあれ以来逢っていませんが、今も大好きな人間です。》と書いているから、二人は本当の飲み友だちなんですね。
渡さんの作品の中でワシャが唯一評価するとしたら、やはり倉本作品の『浮浪雲』である。ジョージ秋山の原作で、脚本を倉本聰、製作に石原裕次郎が名を連ね、主演が渡哲也。脇を桃井かおり、笠智衆、大滝秀治などが固めている。今、考えればすごいゴージャスなテレビドラマだった。この頃の渡さんを倉本さんが点描している。
《世間が持っている彼のイメージと言えば『西部警察』(1979年/テレビ朝日)のハードボイルドな感じかと思いますが、実際は『浮浪雲』の雲に限りなく近い。できれば何もしたくない男なんです。好きな焚火だけして、じーっとしていたいタイプ》
そう聞くと、倉本脚本で渡さんのドラマが観たかったなぁ。大間のマグロ漁師でも、海にはもう出られない長老役かなんかで、性格は『浮浪雲』の雲のようなジジイ。「おねえちゃん、オイラと遊ばない?」なんて若い観光客に声をかけるんですね。
最後に『浮浪雲』で渡さんが演じた雲の名セリフを『倉本聰の言葉』(新潮新書)よりチョイスします。
「人の考えは日に日に変わります。人間は矛盾の生き物です」
「男が真実を語るときには、必ず覚悟が必要だからですよ」
「昔別れた女って、どうしてきれいに思えるンですかねえ」
「あちきは倅ァ、アレでやすよ。――腕白でもいい。丈夫な子どもに育って欲しい」
「あちきもあんたに。――ラブでンス」
こんなセリフを、あの渡さんがどうどうとドラマの中で言っていたんですね。ううむ、また『浮浪雲』が観たくなったでありんす。