鷺娘

 名古屋錦秋歌舞伎に「鷺娘」(さぎむすめ)が掛かる。今回は、歌右衛門襲名をひかえた中村福助が舞う。楽しみだなぁ。
「鷺娘」は女形の見せ所だ。かつて女形の名手たちがこの舞いを引っ提げて舞台に立った。ワシャが観たものは、歌舞伎座玉三郎福助御園座雀右衛門日舞の発表会でどこかのオバサン。
その中で印象に残っているのは、やはり玉三郎の「鷺娘」である。白無垢姿で舞い、引き抜いて町娘になり、ウキウキするような恋心を踊り、やがて凄絶な恋の業火に身を焼き尽くすというテーマを、繊細に、かつ大胆に舞う玉三郎はこの世のものとは思えなかった。見ごたえ充分だったなぁ。
 前回、福助を観たのは平成13年だった。あれから干支がひと回りした。福助の芸も円熟味を増しているだろう。

 さて「鷺娘」である。
 青味がかかった舞台に、白無垢、綿帽子、蛇の目傘をさした娘がセリ上がってくるところから始まる。荒涼とした雪野にたたずむ白鷺が儚げだった。
 ただ、名古屋市民会館にセリがあったかどうか定かではない。あるいは脇からの登場になるかもね。そうなるとずいぶん雰囲気の違ったものになるだろう。
 歌舞伎ではセリから登場するものはだいたい人間ではない。鷺娘もセリ上がってくるので人間ではなく鷺の精ということ。それに「ひゅ〜〜〜〜〜」と長く尾を引く不気味な笛の音、白無垢に黒の帯、ビジュアル的にもこの娘がこの世のものでないことが、如実に表現されている。
 福助が、恋に悩む女の性のようなものを伝えることができれば、歌右衛門襲名を盤石のものにすることができよう。
 この後、引き抜きがあって、いっきに白鷺が町娘に変身する。これとともに不気味な暗さに覆われていた舞台がぱっと明るくなって、華やかな町娘の恋心を舞う。このときの所作が、初々しく、可愛らしく見えれば大成功。
 そしてクライマックスにむかい、町娘は鷺の精にふたたび変化する。降り続く雪の中で、もがきつつも、なんとかはばたこうとするのだが、最後は息絶えてしまう……。とても悲しい物語なのである。

 観る時の注意点としては、「鷺足」という独特の足運びを見せるので見逃さないようにしなくっちゃぁね。