花木村月夜奇妙

 見出しは「はなのきむらつきよのきてれつ」と読む。御存じ遠山の金さんの中村梅之助が主催する前進座の公演の舞台演目である。早世の童話作家新美南吉が28歳の折に書いた童話「花のき村と盗人たち」が原作となっている。
 昨日、この前進座公演が近所の公会堂であった。子供向けの演劇なので、解かりやすいと言えば解かりやすい。元々童話なのだしね。それでも前進座なので、基礎の部分に歌舞伎がある。出演者のメークや、セリフの言い方、走る際にツケを打つ「韋駄天」など、歌舞伎の匂いがあちこちにしましたぞ。歌舞伎を知らない人は、こういった演劇から入るのも一つの方法なのかもしれない。

 さて、物語は架空の村「花のき村」である。実は南吉が晩年に通った女学校の東に花ノ木という町があって、南吉は朝夕そこを通勤で歩いていた。そこから物語の着想を得たことはほぼ間違いない。原作のほうには出てくる尼寺とか土橋というのが実際にあったからね。
 その花のき村に盗人たちがやってくる。石川五右衛門ばりに百日鬘のおかしら、それに弟子入りしたばかりの錠前師の海老之丞、軽業師の角兵衛、大工のカンナ太郎の4人である。原作では盗人は5人いるのだが、舞台にするにはキャラが多過ぎたのだろう。一人減となっているが、舞台を見る限りそのほうがそれぞれのキャラが立ってよかった。
 早速、おかしらは「花のき村で一仕事するべい」ということで、3人の弟子を村に放つ。しかし、どいつもこいつも役に立たず、叱り飛ばしてまた村の様子をうかがわせるのであった。
 花のき村の地蔵堂の脇で待っているおかしらのところに子牛を引いた男の子が現われる。実はお地蔵さんの化身なのだが、おかしらにはそのことを知らない。その男の子はおかしらに子牛をあずけてどこへともなく去ってしまう。
 人に信用されたことのなかったおかしらは、子牛をどうしていいか困ってしまって、戻ってきた弟子と一緒に子牛の持ち主である男の子を探すのだが、一向に見つからない。
「こうなったら物知りの村役人に聞いてみよう」ということになり、酔っぱらいの村役人が登場するのだが、これがまた好人物で、おかしらは気持ちをほだされて、ついつい悪行を白状するのだった。
 村役人が「お前さんは、この村で泥棒を働いたのか」と尋ねる。「まだしていないが、よその村では悪いことをしてきた」と答える。
「よその村のことかい。それじゃぁワシの管轄外だ。それに子供からあずかった牛を夜っぴて探すなど悪人はしない。どうじゃ、お前さんたち、この村で働いてみないかい」
 と、ハッピーエンドとなり、盗人たちと村人が一緒になって踊って幕とあいなる。
 演劇としては解かりやすく、村の少女おはなが底抜けにポジティブシンキングをするので、ついつい笑ってしまった。このおはなの笑顔を見ただけでも、得をしたような気分になった。