あまちゃんがあまい

 昨日のNHK朝ドラの「あまちゃん」である。1980年代の回想シーン、主人公の天野アキの母親である天野春子(小泉今日子)が上京し、スカウトマンの荒巻太一と知り合う。その二人がタクシーに乗って、カセットを聴くシーンがあった。そのシーンが最悪だった。
 後部シートに荒巻と春子が並んで座っている。その2人が三点式のシートベルトをしているのだ。おそらく春子の年齢を考えると1985年の設定である。これははっきりと言えるが、昭和60年に後部シートに乗った人間がシートベルトをすることはなかった。それに当時の後部シートのベルトは二点式だった。
 シートベルトは、昭和60年9月1日施行の改定道路交通法によって高速道路や自動車専用道において運転席・助手席での着用が義務付けられた。一般の道路については平成4年まで待たなければならない。そういった状況だった。にもかかわらず、昭和60年設定のタクシーに乗る2人が後部シートで三点式のシートベルトをしている。ありえないシーンだった。このシーンを見せられたとたん、ワシャの気持ちはドラマから乖離してしまった。ずっと「これは昭和60年の回想なんだ」と思って観ていたものを「現在」という警策で叩かれたようなものだわさ。
 これはひとえにNHKサイドが悪い。クソ真面目な演出家が撮影時に道路交通法を守ったか、あるいは上層部から「撮影と言えども道路交通法を破ることはまかりならぬ」という命令がでたか。どちらにしてもバカな話で、ドラマを壊してしまった。
 例えば、タクシー内のシーンをシートベルトの映らないバストショットで切り抜けるとか、走るタクシーだけを映して、荒巻と春子は声だけにするとか、ごまかす方法はいろいろある。それをご丁寧に三点式のシートベルトをきっちりと締めさせるなど、愚の骨頂、笑止千万。
 おそらく工藤勘九郎もこのシーンには落胆したことだろう。ドラマがおもしろいだけに悔やまれてならない。