ごんぎつね

 昨日、仕事帰りに駅前の書店に寄る。雑誌コーナーでうろうろしていると書店の奥さんが声をかけてくれた。
ワルシャワさん、南吉オリジナル版の『ごんぎつね』が入りましたよ」
 ほう、出たか。

 6月19日の朝日新聞に、《名作「ごんぎつね」。小学4年の全社の国語教科書に採用されているが、基になっているのは、児童文学者が添削したとされる文章だ。今年は南吉生誕100年。オリジナル原稿に光を当てようと、私立立命館小学校京都市)の岩下修教諭が、絵入りのテキストをつくった。》という記事が載っていた。
 編集者や巽聖歌の筆が入ったであろう現在の「ごんぎつね」よりも、南吉初稿であろう自筆ノートに書かれた「権狐」のほうが、南吉の思考や思想が整合的に盛り込まれている、と岩下先生は言われる。
 確かに、現在、教科書に載っている「ごんぎつね」よりもオリジナルの「権狐」のほうが、文章に余韻があるような気がする。例えばこんなフレーズだ。
《「おや――――。」兵十は、権狐に目を落としました。》これがオリジナル版。
《「おや。」と兵十はびっくりして、ごんに目を落としました。》これが何度も添削を経た後のものである。
 岩下先生は、「おや」の後の、「―」(ダッシュ)に注目している。教科書に掲載されているものは「おや。」で「―」はつかない。「―」がつかなければ、兵十は「おや」と気づいて、びっくりして、ごんに目を落とす。その間に、兵十の気持ちの入り込む余地はない。
 しかし、「おや」の後に「――――」がつくと、ここには、疑問、気づき、驚き、嘆きと、表面には出てこない兵十の思いが、込められることになる。ここが大切だと岩下先生は言う。
 実際に、立命館小学校では、オリジナルの「権狐」のほうが子供たちにいろいろな感銘を与えるそうだ。
 ワシャは『校定新美南吉全集』を持っている。そこにオリジナルも収録されてある。だから資料としては必要ないと言えば必要ない。でも、せっかく奥さんが声をかけてくれたこともあるし、実際に絵本としてもいい出来だと思う。ありがたく買わせていただいた。
 こちらでも購入できます。
http://www.ritsumei.ac.jp/primary/news/article.html/?id=94

 その他に、保志学上方落語考究』(鳳書院)、『東海の異才・奇才列伝』(風媒社)、関口智弘『群れない力』(経済界新書)、「文藝春秋」など雑誌を数点買って帰宅した。