天井桟敷の人々

 映画評論家の双葉十三郎さんが、フランス映画「天井桟敷の人々」を評してこう言っている。
《その規模、精神の雄渾、この作品に比肩すべき映画はない。》
 映画ファンにはよく知られているのだが、双葉さんの映画評は☆(20点)★(5点)であらわす。満点の☆☆☆☆☆はお目にかかったことがない。双葉さんの中では100点は存在せず、☆☆☆☆★★(90点)が最高点になっている。「天井桟敷の人々」はもちろんこの最高点である。
 映画は3年3ヶ月を費やし製作、1945年に上映された。ナチスドイツの全フランスの占領が1942年11月だから、その最中に3時間をこえる大作が作られたことになる。あっさりとパリを無血開城してしまったフランス人だが、その底意地にはすごいものを持っていると思う。
 先日、愛知芸術文化センターで、パリ・オペラ座バレエ団の公演があった。演目は「天井桟敷の人々」である。もちろん観に行った。以前に「白鳥の湖」を観て以来、バレエに魅了されているワルシャワだが、今回の「天井桟敷の人々」もとても良かった。パントマイム役者のバティスト、彼が恋する女芸人のギャランス、二人を取り巻く人々。もちろんバレエなのでセリフは一切ないけれど、切なくも美しい愛のドラマが舞台に展開していく。
 ただし、このバレエ、前提条件が一つある。映画の「天井桟敷の人々」を観ておくことが不可欠と言っていいだろう。映画を観ておくと、ドラマの展開がスラスラと入ってくる。だから複雑な人間関係を追わずに、役者たちのバレエを堪能することができる。それに、何箇所か劇中劇が入っている。そのあたりも映画を踏まえて観ると判りやすい。
 ワシャの前の席で身を乗り出して観ていたオバサンは「よくわからない」を連発していた。帰路にたまたま交差点で一緒になった女性のグループも「映画を観ていないのよね」とぼやいていたものだ。
 ここは、映画史上に燦然と輝く名作は押さえておかないと、その映画を下敷きにして作られているバレエは半分も楽しめないのではないか。
 ワシャは「天井桟敷の人々」のDVDを持っているのでバッチリでしたぞ(笑)。