まず、あなたからでしょ

 昨日の朝日新聞のことである。2面に<日曜に想う>というコラムが掲載されている。これにコラムニストの勝谷誠彦さんが大笑いした。その大受けコラムの書き出しがこうだ。
「パリの、淡い夏が近い。マロニエの若葉が風にきらめき、やせ我慢せずにカフェの屋外席に座れる日が増えてきた……」
 あんたは細川俊之か。
 アンニュイな細川俊之風の書き出しで始まる空疎なコラムを勝谷さんはこう評す。
《あっ、ちなみにあとの9割ほどは愚にもつかないEUの今後の分析です。何ひとつ新しい知見はない。面白かったのは、この演歌のような冒頭だけである。》
 ワシャのような素人が見ても、そう思える。高給をはみ、パリ暮らし、朝日新聞の特別編集委員というのは3日やったらやめられまへんな。

 同日の「声」欄に、こちらも苦笑させられる投稿があった。お題は「メディアリテラシーを養おう」。内容は「ソーシャルメディアは社会と切っても切れないものになってきた。無名の市民や虐待されている少数民族が主張を発信するのに有力な武器となった。しかし、そういったメディアは玉石混交なので、信頼できる新聞のような媒体にがんばってもらわなければいけない」というものである。
 ううむ、新聞を信頼している段階で、この投稿者はメディアリテラシーが欠乏していると言っても過言ではあるまい。ワシャの家では、地元の情報が欲しいので中日新聞と、内容が偏っていて楽しいので朝日新聞の2紙をとっている。でね、やっぱり圧倒的に楽しいのは朝日新聞と言っていい。日曜の朝から「パリの、淡い夏が近い……」ですぞ。それに徹底的に左翼的な紙面構成もすばらしい。たとえば今朝の朝日新聞である。
 トップ記事が《「主権回復の日」深い溝》、政府式典と抗議大会をバランスよく並べてあるようで、論調は安倍政権批判が主となっている。もちろん「天声人語」は、朝日新聞金科玉条である現憲法擁護の話を持ってきた。
 社説のほうは、「言うまでもなく、日本が侵略戦争や植民地支配の過ちを犯し、その末に敗戦を迎えたという歴史である」と主張する。本当にそうだろうか。朝日新聞はそう断じるだけの根拠を持っているのだろうか。「そうではなかった」という主張や研究も出ている。そういったものも読者に示してこその公器ではないのか。
 投稿欄は「国防軍構想 自民のおごり露呈」「靖国参拝には真心感じられぬ」「議員は公私の別をわきまえよ」とほぼ左一色である。
 極め付きは、社会面の「4・28切り捨て忘れぬ日」8段ぶち抜きの「主権回復の日」式典に関する批判記事である。
 これを偏向報道と言わずして、なにがあるというのだ。日本の領土を狙うどこぞの体制の走狗となりはてている。こんな新聞を「信頼できる媒体」などと思っている段階で、すでに投稿者は洗脳されている。メディアリテラシーがごっそりと欠落しているのだ。
 ジャーナリストの日垣隆さんが『情報の「目利き」になる!メディア・リテラシーを高めるQ&A』(ちくま新書)を上梓されたのは10年以上前である。この新書を超えるメディアリテラシー論をワシャは知らない。
 また、朝日新聞の見巧者である勝谷誠彦さんの『あっぱれ!朝日新聞(笑)』(WAC)もメデアリテラシーを鍛えるのに参考となるだろう。この本を読んで、朝日新聞に向かうと、とんでもないほど朝日新聞が面白くなる。
 新聞からメディアリテラシーを養おうとしている投稿者は、まず、上記の2冊の本を読んでみることをお薦めする。それでも、朝日新聞が一番信頼できるということであるなら、どうぞご勝手にということである。