忠恕(ちゅうじょ)

 退職される方(仮にNさんとしておく)から「忠恕」という言葉を送られた。「忠恕」は孔子の一貫した原理で「他者へのまごころをもって奉仕すること、他者を親身に思いやること」である。この言葉を座右の銘にしていたNさんは、確かに他者にまごころをもって接し、思いやりの心を忘れなかった。小人のワシャには真似ができない。
 
「忠恕」は論語の里仁編に出てくる。
「夫子之道、忠恕而已矣」
金谷治の訳では、「先生の道は忠恕のまごころだけです」となっている。
『中国の思想[Ⅸ]論語』(徳間書店)では、「先生は、良心をいつわらぬこと、他人への思いやりとが人倫の根本だとおっしゃったのだ」と訳 されている。
 宮崎市定は、「孔先生の道は真心の一本道だ」と解釈する。
 三者三様だが「忠恕」はおおよそ「まごころ」で一致している。

 そんなことはどうでもいい。
 Nさんのことである。福祉部門にいたその方は自らの主張を少し強引に通すことで有名だった。そのことで周辺のことなかれ幹部からは嫌われていた。当然だろうね。ある幹部など、口を極めてののしったものである。でもね、押し通した事業は多くの弱者を救済することになったし、他の幹部とは違って、率先して仕事をこなしていた。会社的には評価されていたのかどうか、やや心もとない。だが、何人かの後輩には、「忠恕」の人ととして記憶されることだろう。