尾張一宮をうろうろ

 昨日、所用で尾張一宮に出張した。
 出張の話をする前に、尾張一宮について少し説明をしたい。尾張一宮といえば、JR東海道線の駅名であり、尾張一之宮ならば尾張国一の宮に位置づけられている真清田(ますみだ)神社のことになる。「之」のあるなしでずいぶん違ってくる。
さて、真清田神社のことである。この神社の御祭神は天照大神の孫の天火明命(あめのほあかりのみこと)で、太陽、炎、熱などを神格化したと思われる。また、「ほあかり」が「穂赤り」とも重なり「穂が赤らむ」→「穂が実る」につながるため、農業神とも言われている。そもそも「真清田」が、木曽川から流れ込む清く澄んだ水が水田に漲っていたところから名づけられている。やはり尾張三河とは違って古代より豊かな穀倉地帯だった。
 現在の一宮市である。人口は38万人、愛知県尾張地方の北西部に位置する特例市。もともとは繊維工業で栄えていたが、その後、繊維の衰退とともに町の勢いもなくなっていく。愛知県内の10万以上の人口を有する都市の中で、瀬戸市と並んで地方交付税交付団体となっている。要するに財政力はよくないということ。
 昨年の11月1日に尾張一宮駅東に、駅前ビルがオープンした。7階建てのビルなのだが、5〜7階は工事中だった。その部分がこの1月10日に「中央図書館」として開館したのである。
 そこがどうなっているのか気になりまんがな。だから、急遽、時間をつくって調査に出かけたのだった。

 JR尾張一宮駅は名古屋から快速で一駅11分。東京駅に当てはめれば中央線で市ヶ谷の距離である。名古屋へのアクセスは極めていい。ゆえにストロー効果で吸引されてかつての駅前商店街は衰退の一途をたどっている。
 駅東、いわゆる一宮の中でももっとも繁華であった中心市街地である。メインはなんといっても七夕で有名な本町通。南北1kmに伸びるアーケード街だ。それがどうだろう、3割がたのシャッター街になってしまった。本町通ですらこの惨状である。その周辺をざっと歩いてみたが、惨憺たるありさまだった。ほとんど商業は機能していないのではないか、そんな印象である。
 元気のない地方の都市はだいたいこんな状態なのだ。それでも、そこの商店主たちにまだ気力が残っているところは、街がある特定の傾向を示す。これはワルシャワ理論なのだが(笑)、復活の兆しをもっている商店街は裏通りに隠れるようにして気の利いた居酒屋が生き残っているものである。
 だから、街を見て歩いていて、そんな居酒屋を見つけるとホッする。よし、まだこの街は死んでいない。焼け跡に咲く一輪の花を見つけたような思いにとらわれる。
 今回の探索では、2軒、もしかしたらと思う店があったが、如何せん、日中のことで暖簾をくぐるというわけにもいかぬ。また、夕方から調査に訪れることにして商店街をあとにした。

 さて、中央図書館のことである。一宮市のゲートエリアであるJR尾張一宮名鉄一宮駅に隣接して建設された。立地はまことによろしい。公共公益施設を主体とした「交流・文化拠点」として7階建て。まぁ賃料のことを考えると公共で埋めるしかなかったんだろう。
延べ床面積は21,400�、シビックテラスと呼ばれる公共空間があるが、吹きっさらしで風の強いときはどうするねん?と思ってしまう板張りのスペースである。この他に、子育て支援センター、人材開発センターなどとともに、中央図書館機能が5〜7階に置かれている。
 5階は児童書エリア。6階、7階が一般書エリアである。受付は市の職員ではなく委託に出している。少し対応を見たかったので、7階のレファレンスカウンターで暇そうな女性に、
「あのぉ、市外在住なんですけど、貸出券を作りたいのですが……」
 と、声をかけてみた。そうするとね。
「6階に専用カウンターがありますのでそちらでお作りください」
 こうきた。
「ここでも作れますよね」
「ええ、ですが少々お待ちいただくことになりますので6階でお願いします」
「少しくらい待ってもいいですけど……」
「かなりお待たせすることになると思いますので6階へ」
 少々が、かなりになったか。女性の前の記載台には「貸出券申込用紙」が並んでいるにも関わらず、である。
 ワシャは丁寧に礼を言って、カウンターから離れた。やはりサービスの基本は人だな……そう思った。


 ハード面はというと、図書館としては開放的なつくりになっていて、書棚も背板がなく向こう側が見渡せる。たぶん予算の関係で、安いスチール棚にしたのだろうが、むしろ重厚な木の書棚よりも好感が持てる。天井は低いのだが、棚が軽いので圧迫感をさほど感じない。そしてあちこちにシングルの椅子が配置されていて、これは老人にはやさしい気配りだ。雑誌コーナもシングルの椅子になっている。ここをソファーにすると、浮浪者の仮眠室になってしまうのだが、シングル椅子であれば雑誌を楽しむ人のためのスペースとして確保することができる。それでも、その椅子のまわりに大きく膨らんだレジ袋を4つ5つ転がしながら眠っている人もいたけれど、あれでは苦しかろうに。

 なにしろ立地がいい。これだけでこの図書館は合格だ。この図書館の展開で、一宮市民のレベルは間違いなく上昇していくだろう。それが次世代をそだて、10年後、20年後に、衰退した商店街を再生する原動力になるのではないか。そんな気がする。