後藤田の訓

 かつてカミソリと呼ばれた男がいた。中曽根内閣で官房長官を務めた後藤田正晴である。その時、内閣の5人の室長に対して与えた訓示を「後藤田五訓」と言う。

1、出身がどの省庁であれ、省益を忘れ、国益を想え
2、悪い、本当の事実を報告せよ
3、勇気を以って意見具申せよ
4、自分の仕事でないと言うなかれ
5、決定が下ったら従い、命令は実行せよ

 5人の室長の中に佐々淳行氏がいた。この佐々氏が自身の著作の中で、この五訓を記し世に知らしめた。佐々氏によれば、この五訓の裏返しが、危機管理最悪の敵の「官僚主義」になるという。
 そう思って読みなおせば、「3.11」の際に、この五訓のまさに正反対のことが菅内閣霞が関の手で行われていた。このことは日本の悲劇と言っていい。残念ながら民主党後藤田正晴はいなかった。その代わり、後藤田の出身地の徳島から、五訓裏返しの魔物仙谷チューチューが官邸に居座っていたのだ。これでは悲劇は拡大する一方だわさ。

 先日、テレビニュースで政治評論家が後藤田正晴の言として次のようなことを言っていた。
「国会議員で一番駄目なのが地方議員上がり。その次が官僚上がり。世襲議員なんぞはモノのいい方だ」
「なぜ地方議員上がりが最悪なのかと言えば、議員の悪い過ごし方というのがあって、それを地方議会で身につけてしまっているからだ」
 今回の衆議院議員で多くの地方議会出身の代議士が生まれた。すべての地議出の代議士がモノが悪いとは思わないが、強い傾向として後藤田の指摘は当たっていると思う。地議出代議士の周辺にはすでに多くのしがらみ利害関係者が張りついてしまっている。

 最後に後藤田の著作から警句を一つ。
《ただ、心配なことがある。それは最近のマスコミである。ちょっとした、表面的な事実をかすめて、全体が極悪であるかのように書き立てる新聞や雑誌がある。テレビや全国新聞にも似たような傾向がある。こういうマスコミにばかり接していると、国民は情緒的に反応して政治不信を募らせる一方となるだろう。》
 この文章に続いて後藤田はこう危惧している。
《これが続くと衆愚政治になってしまう危険性がある。》
 これは平成6年に書かれた文章である。今、20年近い歳月が過ぎて、後藤田の発した警告は的中した。