まだまだ勘三郎

 昨日、午前中に所用があって出かけていた。昼にいったん自宅に戻り、ちょいと調べ物があって関係資料集めに図書館に行くつもりで予定を組んでいたのだ。昼食をとりながら何気なく新聞を眺めていた。
 ガーン!「NHKアーカイブス さようなら中村勘三郎さん〜芸に生きた日々〜」という特集が午後1時05分からあるではないか。即刻、図書館行きは中止にした。

 司会は桜井洋子アナ、ゲストに勘三郎の親友の坂東三津五郎渡辺えり、歌舞伎解説者の山川静夫である。生前、活躍する姿をドキュメンタリーに描く。また、勘三郎をよく知る3人の心をしぼるような話が悲しく辛い。
「私、哲明(のりあき)さんを愛していますから……」
 という渡辺えりの発言は心の絶叫だったろう。
「思い出は語れない」
「人を驚かせるのが好きだったから、ひょいと現われそうな気がする」
 三津五郎は涙をにじませてそう言うのが精いっぱいだった。

 平成中村座NY公演、こんぴら歌舞伎、NHKのワンダー×ワンダーなど、生前の勘三郎が満載で、貴重な映像を見ることができたわい(泣)。

 さて、その夜である。Eテレで午後9時から勘三郎の歌舞伎を流す。演目は「梅雨小袖昔八丈」(つゆこそでむかしはちじょう)である。いわゆる「髪結新三」(かみゆいしんざ)という江戸前の小悪党を描いた市井もの。平成17年に勘三郎襲名披露の際、歌舞伎座で「髪結新三」をかけているのでてっきりその映像かと思ったら、平成12年の歌舞伎座のもので、勘三郎がまだ勘九郎のころの舞台だった。
 でもね、やはり勘三郎だ。江戸っ子の小悪党をやらせたらこの人の右に出る者はいないわさ。
「柄のねエところへ柄をすげて油ッ紙に火がつくようにべらべら御託をぬかしゃアがりゃア、こっちも男の意地づくに破れかぶれとなるまでも、覚えはねえと白張りのしらをきったる番傘で、筋骨抜くから覚悟しろイ」
 永代橋たもとでの新三の名ゼリフである。
 ああ、勘三郎の団七、法界坊、俊寛……もう一度、観たいなぁ。

 勘三郎は、仕事でも遊びでも全力を尽くす人だった。そして周囲に気配りを常に絶やさない人だった。一分一秒をも無駄にせず、勉強を重ねる人でもあった。勘三郎の生き方は、人生を一生懸命に生きようとしている多くの人々のお手本だと思う。