書店にて

 昨日は『男はつらいよ 寅さんDVDマガジン』の発売日だったので、仕事帰りにいそいそと本屋に行く。いの一番に『寅さん』をゲットし、その後、店内をうろうろ徘徊する。単行本、雑誌などあわせて10冊を購入した。変わったところでは、長野由紀『バレエの見方』(新書館)。ワシャは基本的に板についたものが好きで、それは歌舞伎から蒲鉾までということなのだが、その中に当然、バレエも入っている。だから、「ジゼル」から「白鳥の湖」まで丁寧に分析し解説してある本書はありがたい。これも異色なのだが、葦津珍彦『大アジア主義頭山満』(葦津事務所)、このところ玄洋社頭山満が気になっているので買っておく。
 6冊ほどをゲットして、雑誌コーナーで立ち読みしている時のことである。手に持った本を、積んである雑誌の上に置いて、立ち読みをしていた。そうしていると左から手が伸びてくる。ワシャの6冊の本の下になっている本を取ろうとしているではないか。これは他のお客さんに迷惑をかけてはいけないと、「あ、すいません」と言って、6冊の本を抱えた。
「この暑いのにスーツかよ」
 ワシャの左手に立った男がそういった。
 そうそう10月1日の衣替えからスーツを着用している。まだまだ暑い日が続いているので、スーツもネクタイ着用もそれぞれの社員の判断に任されている。もちろんワシャも堅苦しいスーツにネクタイなど着用したくはないが、社長も出席する大きな会議があったので、季節の変わり目でもあるので、暑さで緩んだ気持ちを引き締めるためにも、スーツにネクタイを締めていた。
「この暑いのにスーツかよ」
 その男の言うとおりなのだが、それをここでいうのはいかにもぶしつけだ。声にも聴き覚えがあったので、一瞥すると3つばかり先輩の某課長だった。
「ども」
 と会釈をすると、某課長、さらにこう言った。
「内務官僚は大変だな」
 一瞬、某課長が何を言ったのか理解できなかった。
 内務省?官僚?なんでオレが内務官僚?
 でも、すぐに察しはついた。軍隊で「内務」といえば日常的な室内の仕事をさす。その先輩は外に出ることの多い部署の課長だったので、内勤の多いワシャのことを「内務」と表現したのだろう。
「おれは外回りだが、おまえ(ワシャのことね)は企画畑なので、幹部の近くの涼しいところで働いている。だからこの暑いのにスーツを着ていられる身分で結構なことだ」
 と言っている。
 先輩でもあるし、その人の部下だったこともあるので反論するのも大人げない。
「ハハハ」と三つ笑ってごまかした。

 しかし、この先輩、昔はそれなりに服装に気を使っていたのだが、退職が近づいてきたせいか、最近は服装に無頓着になっている。いくらなんでも課長がよれよれのワイシャツ、膝の出たズボンに大きなリックサックを背負っているってのはどうでしょう。もう少し身だしなみを考えられたほうがいいと思います。半ズボンをはいたら間違いなく山下清ですよ。
 もちろん世話になった先輩でもあるので――あんまり世話にはなっていないか(笑)――そんなことはおくびにも出さず、数冊の雑誌を選びとると、会釈をしてレジにむかった。