忙しくなければ面白くない(その2)

 金山駅(名古屋)では晴れていた。そのまま地下鉄に乗り換えて、名古屋市役所を目指す。呉さんの講義は、市役所の東、地下鉄の出口から5分ほどのところにある市政資料館で行われる。3番出口から出ようと思い南改札を抜けた。その時にゴウゴウという異音に気がついた。何度もこの改札を通過するが、そんな音は聴いたことがない。なんだろう?
 30mほどの地下通路を進み、階段をコの字に上がれば地上に出る。通路を行くあいだもゴウゴウという音が続く。そしてそれは進むにつれてだんだん強くなってくる。
 階段下に差し掛かって音の源がわかった。階段が滝のようになっているではないか。バチャバチャと踊り場まで上がって外を見れば、天の底が抜けたような集中豪雨だった。傘は持ち合わせていないし、持っていたところで、この豪雨ではどうしようもない。差したって三歩も行かぬうちにびしょ濡れになる。一応よそ行きの格好をしているワシャは無謀なチャレンジはせず、そのまま改札のところまで戻って小やみになるのを待つ作戦に切り替えた。

 10分程待った。まだゴウゴウという音は続いている。そこに呉塾の仲間が通りかかった。
「どうしたんですか?」
「今、地上は大雨です」
「そうなんですか」
 ということで、しばし待とうということになった。
 また10分程経過した。講義の始まる時間が近づいている。ゴウゴウという音はかなり小さくなっている。
「行きましょう」
 と、ジーンズにポロシャツ、裸足に草履という出で立ちの呉塾優等生の仲間が、雨中突破を提案する。
 ワシャは劣等生だし、ジャケットにスラックス、まだ新しいリーガルの革靴を履いている。あまり無謀なことはしたくないよ〜ん。傘もないし……。
 ワシャが躊躇していると、仲間は、改札の係員に掛け合って忘れ物の傘を1本、ワシャのために借りてくれたのだった。そこまでやられたら、そりゃ雨の中でも突撃しまっせ(泣)。

 結果、市政資料館に到着した時、ワシャは頭の先からつま先までグショグショになってしまったのだった。水も滴るいい男って言われても、ちっともうれしくない。
 
 しかし、呉さんの講義はとても面白く、雨の中をやって来た甲斐があった。エアコンがよく効いていて3時間で全身乾いてしまった。でも、きっちりと線の入ったスラックスはロレロレになり、アイロンのかかったシャツはシワシワである。これでデートには行けまへんで!