瞬発力のない秀才

 2011年3月12日に、福島の知人に送ったメールがある。多少、地震防災についてかじっていたので、地震直後に急ぎメールを出した。以下は、取りあえずお見舞いをした第一報に続く第二報。
《皆さんがご無事でライフラインにも問題がないとのことでひとまずほっとしました。どちらにしましても、これから地震活動は終息に向かっていくはずです。それにともない流通も通常の状態にもどっていくものと思われます。》
「3.11」は海溝型の地震であった。このために直下型とは違い、比較的建物への被害は少ない。震源から遠い福島県中通りでは、ライフラインも生きているとのメールの返信があってホッとしたものだった。
《取りあえず空いたペットボトルがあれば、水を蓄えておいてください。それからカップ麺やインスタントラーメンをたっぷりと確保してください。あとは燃料ですが、灯油、プロパンガスがあれば、言うことはないのですが、カセットコンロでもいいでしょう。
炭と七輪でもいいですよ。水、食料、燃料、そして家族のきずながあれば、災害など屁の河童です。》
 このあたりは、一般的な被災後の心得のようなものをお伝えした。
福島第一原発の爆発事故につきましては、テレビ報道では詳細がまったく見えません。保安員とかいう人もなにも答えていません。》
 3月12日の午後7時頃のメールだから、この時点ではまだ爆発は起きていない。にもかかわらず、「福島第一原発の爆発事故」と言っているのはなぜだろう?3号機の原子炉建屋での水素爆発は、14日11時01分である。
 多分、「爆発の危険性がある」というような報道を受けてのことだと思う。
《でも、一つ言えることは、郡山は安全だということです。この季節の風向きがいいことと、阿武隈高地が東側に立ちはだかって遮蔽していることで直接的な影響はないものと思います。》
 ワシャは、ずぶの素人である。しかし、それでも、この時期の福島の風向、地形などを考えてメールを認めている。ワシャの足りないおつむでも、同心円状に被害が出るなどとはこれっぽっちも思っていない。「爆発した場合、放射能は、風、地形に大きく影響を受けながら拡散する」くらいの一般常識は持っている。
 その最たる情報が「SPEEDI」(緊急時迅速放射能影響予測システム)だった。120億円の高額システムは、無知なオッサンのメールにすら敗けたわけだ。
 このあたりを国会原発事故調査委員会の最終報告書はこう指摘する。
保安院などの官僚機構は平常時の意識にとらわれて受動的な姿勢に終始し、縦割り意識からも脱せず、役割を果たせなかった」

 ホントに役割を果たせなかった。なんのための官僚機構だったんだろう。