寝た子を起こすな?

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120316-00000082-mai-soci
 少し記事が解かりにくいので補足する。
 2006年、当時の広瀬研吉保安院長(現内閣府参与)は、内閣府原子力安全委員会から重大事故対応のために国の原子力指針の見直し着手したという報告を受けた。この時点で安全委は、放射性物質が大量放出される重大事故を想定していたわけだ。
 ところが、ことなかれ官僚、仕事先送り官僚の広瀬保安院長は、
「1999年の茨城県東海村の臨界事故を受けての防災体制がまとまったところじゃないか。今の時点で更なる重大事故を想定して見直しをするなんて、寝た子を起こすようなものではないか」 
と厳しい口調で批判したという。「止めろ」とは言っていない。官僚がそんな言質を取られるような発言はしない。しかし、その底意には「そんな指針見直しは止めてしまえ」がある。同席した人間には、そう取れるニュアンスで言っている。結局、今回の福島第1原発の事故を防げたかもしれない見直しは、広瀬院長の小賢しい発言で封印されてしまった。

 朝日新聞で連載されていた『プロメテウスの罠』がようやく単行本になった。その中に、福島県浪江町の女性の印象的な言葉がある。国と東電に言いたいことがある、と前置きをしてこう言う。
「誰もいない道を走ってごらんって。そうすれば、自分のしでかしたことの大きさを感じられるからって」
 
 ネット上には、広瀬元院長を始めとする今回の人災に関わったとする官僚たちを強く責める言動が多い。確かに市民感情からすればそうだろうし、被災者から言わせてば敵といってもいい連中だろう。
 何らかの形で、人災の要因をつくった連中は償いをすべきだと思うが、取りあえず、浪江町の女性が言うとおり、1か月分の食料を車に積んで、たった一人で福島に行き、真っ暗な死の町に身を置いてみることだ。そうすれば、己が仕出かした不始末を実感できる。そうして初めて人間的な感情と思考が回復するのではないか。
 とにかく、大名行列の視察ではだめだ。一人でゴーストタウンを彷徨ってみることからしか反省は始まらない。
 どこかの元宰相は、四国あたりをうろうろしたそうだが、方向が違うだろう。福島県をくまなく歩いてこそ本当の人災被害が見えてこようというものだ。