地名という大切なもの

 大阪府泉佐野市のことである。
 コラムニストの勝谷誠彦さんが、昨日のメルマガで《地名をカネにしようとした泉佐野市のあほなどは典型》と言っていたのに触発された。

 ワシャは土地の歴史でもある地名を大切に思うものである。手元にある『古代地名語源辞典』(東京堂出版)には、《イヅミとはイヅ(出)・ミ(水)で「湧水」のこと》《サは美称で、「野」という地名》と記されている。
 いにしえの昔、さぞかし泉佐野あたりは美しい野が広がっていたに違いない。そしてその野には、きれいな水の湧く泉があった。いい市名だと思いますよ。
「忘れずよ 松の葉ごしに 波かけて 夜ふかく出し 佐野の月かげ」後鳥羽上皇の御製である。
 歴史もある、響きもいい、なにより市民が愛着をもっている地名を、わずかな銭のために捨てることはない。

 かつて愛知県では「南セントレア市」というとんでもない市名が生まれそうになった。知多半島の先端にある「南知多町」と「美浜町」が合併するにあたって新市名として決定されたものだ。
セントレア」というのは、隣接する常滑市にできた空港の愛称である。これを市の名前に決定する合併協議会ってどうよ?
 合併協議会はバカの集まりだったが、両町民は賢明だった。そもそも「知多」の初出は『古事記』である。この重さを合併協議会のバカボンどもはまったく理解できていない。勝谷誠彦さんの名作(笑)に『バカが国家をやっている』(扶桑社)
http://www.fusosha.co.jp/book/2008/05804.php
があるが、地方自治もバカがやっている典型のエピソードとなった。

 ワシャの住む町の南に広大な農地が広がっている。その中に「夜這池」(よばいいけ)という字名がある。かつては灌漑用の池があったのだろうが、今はその痕跡すら残っていない。資料には「昔の人が夜這いをしたことからつけられたものか。」と記されてはいるが、違うと思う。その字周辺に夜這いをかけるような人家はない。では、なぜこんな地名があるのか。それは、広い農地で、あるいは池を挟んで、耕作をする人同士が声をかけるのに「呼ばふ」(何度も呼びかける)必要があったから「よばう」となり、そしていつの時代にか、洒落者が「せっかくなら夜這と書いてしまえ」ということで「夜這池」が誕生したのだろう。
 どちらにしても江戸時代の初期には文献上に表れた地名である。はしたないとは言え、貴重な文化遺産と言えよう。