連続歌舞伎講座

 昨日、近くの博物館で、歌舞伎入門講座が開催された。もちろん歌舞伎好きの傾き者のワルシャワも出席しましたぞ。
 講師は、長谷川栄胤(よしつぐ)さん、肩書は「名古屋市邦楽協会会長」となっているが、歌舞伎ファンには、御園座の社長さんと言ったほうがとおりがいい。御園座で発売している筋書には、必ず長谷川さんの顔写真とご挨拶文が掲載されている。名家の御曹司に共通する育ちの良さが写真ににじむ。
 それにしても御園座の社長が小さな博物館の講師をするとは、恐れ入谷の鬼子母神。こいつぁ春から縁起がいいわえ。

 長谷川さんの講義がことのほか面白かった。話は、「現在の歌舞伎をとりまく状況」から始まって、「歌舞伎の歴史」、「芸どころ名古屋」、「歌舞伎の外題の話」など多岐にわたった。
 御園座という東海地方で一番大きい劇場のオーナー一族である。高慢ちきな金持ちのボンボンと思っていた。ところが、いたって腰が低く、客へのサービス精神が旺盛な文化人だった。
ワシャが、「御園座二月花形歌舞伎」の筋書にサインをねだると、「役者さんに申し訳ありませんから」とサインを遠慮された。ああ、この人、自分の立ち位置をよく理解している。
 それでも、しつこいワルシャワは、「ご挨拶文」のところを指し示し、「ここならいいでしょう」と更に迫った。そうすると、「わかりました」と笑顔で言われ、サインペンをはしらせる。ああ、この人、客との距離がよく見えている。

 長谷川さんが、受講生に「歌舞伎を1度でも観に行ったことのある人は、全国民の何%くらいでしょうか?」と尋ねられた。30%がパラパラ、20%もそこそこ、10%は数人、ワシャは5%のところで手を挙げる。答えは6%だった。う〜む、ワシャ的にはもっと少ないと思っていた。我社で考えても、歌舞伎鑑賞で顔が浮かぶのは10人程度である。隠れファンもいるだろうから、6%くらいになるのかなぁ。
 
 中村勘三郎の話も出た。平成18年9月に「平成中村座」が名古屋にやってきた。十八代目中村勘三郎襲名披露公演である。もちろんワシャも行った。ただし、場所は御園座ではなく、名古屋駅の西、中村区同朋高校の体育館での開催だった。
http://www.doho-h.ed.jp/old/PDF/161/2_3.pdf#search
 なんでこんな場所でやるのかなぁ……とずっと疑問に思っていたが、このことについて、長谷川さんは、こう言った。
「初代の猿若勘三郎が名古屋の中村出身だったんですよ。だから、中村を名乗るわけですし、当代の勘三郎さんもそのこともあって、どうしても中村区内でやりたいということになりました。残念ながら御園座は中区でしょ。だから同朋高校にお願いしたようなわけなんです」
 ふ〜ん……。しかし、初代の勘三郎が名古屋出身者とは聞いていない。確か、山城国生まれと言われていたのではないか。どうも納得しがたかったので、帰宅して『歌舞伎事典』(平凡社)で調べてみると、やはり山城国と書いてあった。『國郡全圖』(人文社)の山城国を見れば宇治の南に中村という在がある。猿若勘三郎、この辺りの出身としたほうが来歴からも落ち着きがいいと思う。
 そんな些末なことはどうでもいい。とにかく、歌舞伎の最前線に立っている人物の生の話が聴けて、とてもためになった。