夕日と虹と

 西三河南部には、早朝、暴風警報が発令された。家を出る午前8時ごろには、小雨と少し風が強い程度で、「暴風警報は少し大げさだな」と思った。しかし、昼ごろから風が上がりはじめ、予定どおりの荒天となる。
 題は「夕日と虹と」なので、簡単に言ってしまえば、「荒れ模様だった天候も、夕方には夕日が顔をのぞかせ、東の空に大きな虹をつくりましたとさ、めでたしめでたし」という結末なのだが、途中、ちょっとした出来事があったので、もうちょっと付き合ってね。
 
 我社はその性質上、クレーマーが多い。窓口で常連クレーマーが1時間以上も大声で喚き散らすなんていうのは、日常の風景と言っていい。
 クレーマーの中には大物クレーマーが何人かいる。その中の一人にワシャの部局の上司がつかまった。「自宅まで来い」ということになったらしい。そのクレーマーは副社長も引っ張り出すほどの大物で、優しい性格の上司はほとほと困っていた。
 何人かの部下に一緒に行ってほしいと声をかけたようだが、相手を知る連中は「いや、ちょっと仕事が……」と逃げたのかもしれない。それで、ワシャに白羽の矢が立った。
「あ、いいですよ」
 とあっさり受けた。たまたま午後が空いていたこともある。
 それで、午後、荒天の中を相手の家を訪問した。
 行って、話をしてみれば、至極もっともな主張をする人で、穏やかに2時間ほど話をする。といっても、ワシャがすぐに話を脇道に逸らすので、実質の話は、30分あったかどうか。頭の回転はよく、話の内容も多岐にわたり、はっきり言って面白かった。
5時近くになったので、その人の家を辞したわけだが、玄関先で、家まで来てくれたことに対し、何度も礼を言っていた。この人はクレーマーじゃないと思う。どちらかというと声のでかい提案者ではないか。

 帰路、車の中で上司が礼を言ってくれた。

 雨があがり、西の空の雲が切れた。その隙間から夕日が顔をのぞかせる。東の空に大輪の虹がかかっていた。