闘う救急車

 先日、救急隊に所属している友人と飲んでいて、こんな話を小耳に挟んだ。
 119番通報があった。通信班が患者の状況を確認するのだが、電話をかけてきた家人はモゴモゴ言うばかりで要領を得ない。状況がつかめないが、救急隊はとにかく出動する。
 通報から7分で現場到着。老婆の案内で、家族2人(息子夫婦だろう)がテレビを見ている居間を抜けて、患者のいる部屋に入ると老人がベッドの横の床に寝そべっている。
救急隊「どうしました?」
老人「ベッドから落ちた」
救急隊「痛いところは?」
老人「ない。早くベッドに上げてくれ」
救急隊「大丈夫ですか?」
老人「大丈夫だ」
 老人がベッドに上がりたいと言うので、隊員2人で老人をベッドに持ち上げ移す。そして老人に問診をする。寝たきりのようだが、とりあえず緊急搬送の必要はなさそうだ。付き添っている老婆に詳細な状況を尋ねると、お爺さんがベッドから落ちて、息子夫婦に頼んだが、息子夫婦は楽しみにしていたドラマを見ており、手伝ってくれない。しかし、お爺さんは早くベッドに上げろと怒り出す。困ってしまったお婆さんは119番に電話をした。これが真相である。
 こんなバカ話も出た。
 夜、119番通報があった。市内の大きな病院の近くからである。もちろん救急隊が出動する。指定の場所に到着すると、民家の脇の暗がりで男が立って待っていた。
救急隊「どうしました?」
男「腕を折ったようだ」
 確認すると確かに右腕がはれている。
救急隊「歩けますか?」
男「ああ、大丈夫だ」
救急隊「病院は目の前ですよね。なぜ直接行かないんですか?」
男「(笑ながら)実は病院には行ったんだ。でもさ、夜間外来が混んでいたんで、救急車を呼んだ。救急搬送なら優先的に見てもらえるだろう」
 似たような話で、病院で診療を受けていて、診断に納得のいかない患者が、別の病院に行くために救急車を呼ぶ。そんなくだらない話が山ほどある。
 近年、救急車の出動が増加している。実際に緊急を要する患者もいるだろう。しかし、その中の何%かは、こういうバカ出動と言っていい。民度は確実に落ちている。「公共」という意識が希薄になってバカが横行する世になってきた。いっそのこと「救急車を呼べば1回につき1000円かかる」ということにすれば、ずいぶんバカが減ると思うのだが、いかがかな。