奥三河からの珍客

 もう13年も前のことになるのか……。
 愛知県内各地から、いろいろな人間が集まって、「愛知百年の計を考える」という無謀な企てがあった。酒好きが多かったせいか、定期的に名古屋に集まって、グラスを片手に談論風発
 残念ながら、数年の活動を経て、なぜか足が遠のき、その内に会議自体が自然消滅してしまったらしい。
 その会議の主要メンバーで、奥三河で地域おこしに精を出している男から、一昨日電話が入った。
「相談があるので、社に顔を出したい」
 というのである。
 久しぶりだったので、終業後に会うことにした。それが昨日のことだった。

 終業ベルとともに、熊のような男が、のっそりと現れた。お互いの無沙汰をわび、近況を報告しあった。その後、相談を聞いたが、大した話ではなく、奥三河のイベントのパンフレットを置いてほしい、ということで、一も二もなく応諾する。その後は、久しぶりの再会だったので、当時の話で盛り上がった。
 寒々とした事務所で話しているのもなんなので、「街に出ましょうか」ということになった。
 昨日は、この冬一番の冷え込みで、メチャメチャ寒かったですな。ワシャの地域は、シベリア寒気団が直接吹き下ろしてくる濃尾平野の東はずれなので、へたをすると会津若松より寒い。
 急いでワシャの行きつけの飲み屋にしけ込んで、ハタハタをあぶってもらって、それで熱燗をキューッといただきました。五臓六腑を温めながら、旧交も温めたのだった。

 奥三河からやってきた熊さんは、今、奥三河城址を観光資源にできないかと模索しているところだという。城跡、城址と言えば、ワルシャワくんが詳しい。さっそく、長篠城亀山城、田峯城などのうんちくを披露すると、熊さん、えらく感心する。調子にのって山家三方衆、奥平貞能などの話をすると、熊さんも負けじと奥三河のうんちくを語りだす。うんちくとうんちくががっぷり四つに組んでの好一番となった。
 ついに熊さんは、「若山牧水」を出してきた。
 旅と酒を愛した歌人は、鳳来寺山を何度も訪ねている。その関連で、JR飯田線の「湯谷温泉駅」に「Café de 牧水」がオープンしたという。その話をし始めた。
 ううむ……ワシャは、若山牧水については、あまり知識がない。せいぜい、「山ねむる山のふもとに海ねむるかなしき春の国を旅ゆく」くらいを辛うじて知っているくらいだ。だから若山牧水戦では負けた。
 こうなったら新美南吉で起死回生を狙う。これは、圧倒的にワシャが有利である。熊さんは五合の酒をペロリと平らげ、ほうほうの体で山に戻って行ったのだった。どっとはらい