勝手に震源域2倍に拡大するなよ

http://www.asahi.com/national/update/1224/TKY201112240569.html
 内閣府有識者会議が、「東海・東南海・南海」の三連動型地震の想定震源域を従来のものから拡大した。マグニチュードは9クラスの可能性を示唆したんだとさ。
 有識者会議は言う。
《現段階での議論は、あくまで地震の範囲に関する想定の見直しであり、地震が起きる確率についての想定が見直されるわけではない。地震のエネルギーの規模を示すマグニチュードの想定も、震源域が拡大することで大きくなるが、その具体的な数字や津波の高さについては、今後この想定域をもとに議論していく》
 朝日新聞の一面には「震源域2倍に拡大」「規模、M9の可能性も」という見出しとともに、従来想定よりも50〜60kmの幅で北に拡大した新想定のカラーの図が載っている。これを見る限り愛知県の東半分が、ごっそりと新想定域に入ってくるようだ。

 でもね、そんなに心配する必要はない。有識者会議が示した新想定だって、なんら根拠のあるものではない。
東北地方太平洋沖地震の想定を外してしまったから、南海トラフで発生する地震については、安全度を見て、震源域を少しふくらましておこう。少々、大げさに喧伝しておこう」
 といった程度の議論しか成されていない。
 朝日新聞にはこう書いてある。 
有識者会議は、古文書や津波堆積物を調べた結果、過去に実際に発生したとみられる地震をもとに「最大級」がどのくらいになるかを検討した。》
 まず、これがウソだ。古文書を読みこんだのは事実だろう。だが、古文書自体の数が限られているし、記述もそれほど多いものではない。そのわずかな記述から、震源域など想定できんでしょう。
 残るは津波堆積物である。静岡から九州に至る新想定域の全域をボーリング調査したわけではあるまい。ごく限られた調査をもとにして適当に線を引いたことは明白である。そんな机上の想定が役に立つわけがない。
これが困ったものなのだ。机上の空論とは言え、内閣府有識者会議の出した方針である。愚論なのだが、国の方針でもある。これでまた、何百もの自治体が迷惑をこうむるのだろう。

 言っておく。震源域が北に60kmずれ込んだとしても、それほど心配する必要はない。
 東海・東南海・南海連動の地震(以下、連動地震)は、プレート境界型地震と呼ばれている。東北地方太平洋沖地震も同じ型の地震と認識してもらっていい。連動地震は海側のプレートが、陸側のプレートに突き当たって下に潜り込んでいる周辺で発生している。つまり、フィリピン海プレートユーラシアプレートの接線である南海トラフ以北の区域でプレートがずれるということである。
 プレートは北に進めば進むほど、地底深く潜り込んでいく。南海トラフ近辺では、地表のすぐ近くで巨大なマグニチュードが発生するが、列島の下あたりまでくるとかなり深いところでの発生となる。距離があれば、地表に届くエネルギーも減衰する。だから、震源域が北に拡大したからといって、それほど心配する必要はないということである。ここまで、書いて新聞の公器としての仕事が完結すると思うのだが、残念ながら朝日新聞は「脅す」ところで止まってしまって、きちんとした情報が網羅されていない。これではダメだ。

 6月に、宮城県から岩手県の被災地に出かけた。その時の印象では、確かに津波の被害はものすごいもので、人間の想像を超える甚大なものだった。しかし、地震の被害はどうだったかというと、震度6強、6弱の地域を回ってみたが、兵庫県南部地震新潟県中越地震などと被害の質が違うように思えた。もちろん、津波被害はまったく別物で、純粋に地震被害の建物を見聞してきたのだが、兵庫県新潟県と比べ被害が少ないようだ。
 これは印象の話ばかりではなく、直下型地震とプレート型地震の性質にもよることなのだ。いわゆる地震の揺れ方が違う。だから、建物への影響も異なるわけだ。
 しかし新聞報道は、十把一絡げで地震を扱ってしまうので、まったく読者に本質が伝わってこないのである。
 朝日新聞は、うだうだと脅しを並べながら、こんなネタバラシもしている。
《しかし、「最大地震」の科学的根拠を明確に示せるほど地震学は成熟しておらず、今後の研究で想定が変わる可能性もある。》
 この有識者会議が示した方針には、科学的根拠がないと言っている。地震学は未熟だから当たらないかもしれないとも言う。
 そんな占いみたいな方針に地方は唯々諾々として従わなければならないの?そんなバカな。