(昨日の続き)
呉先生の講義を拝聴した。呉先生の講義の方法は、地の文をあるまとまりごとに音読し、それに解説をつけていくというもので、大変に解かりやすい。
先生の音読を聴いていて、気になるところがいくつかあった。先生の音読が気になったのではない。文章に引っ掛かった。
「はっきり言っておく。一つの石もここで崩されずに他の石の上に残ることはない」
「はっきり言っておくが、主人は彼に全財産を管理させるにちがいない」
「はっきり言っておく。わたしはお前たちを知らない」
「はっきり言っておく。わたしの兄弟であるこの最も小さい者の一人にしたのは……」
「はっきり言っておく。世界中どこでも、この福音が宣べ伝えられる所では……」
「はっきり言っておくが、あなたがたのうちの一人がわたしを裏切ろうとしている」
この「はっきり言っておく」が繰り返し出てくる。マタイによる福音書の24章から26章のわずか7ページに9回も出てくる。イエスという人ははっきりした人なんだなぁと思った。
英語では「Verily I say unto you」となっている。大本は知らないが、聖書の古い訳に用いられた常套句らしい。「確かに汝らに告ぐ」という意味か。
1955年改訳の『聖書』(日本聖書協会)では、「あなたがたに言っておく」となっている。こっちのほうが、最近の訳の「はっきり言っておく」よりも自然なような気がする。
そもそもイエスの12人の弟子の中心メンバーは、ガリラヤ湖の漁師なのである。元々、教養などというものとは程遠い下層民である。深い意味を内蔵し、ときには韜晦趣味さえ感じられるイエスの難解な預言が理解できるわけがない。だから、ここぞという時には「Verily I say unto you」と前置きをする癖がついてしまったのだろう。
12人の弟子のリーダーであるペトロもイエスに出会う前はただの漁師だった。そう考えれば、昨日、触れた最高法院でのイエスの裁判の折に、「わたしはそんな人は知らない」と言って逃げてしまったことも大いに頷ける。大谷刑部も乃木希典も武士(もののふ)である。下層民のペテロとは人間としての覚悟が違う。もちろんペトロはそのことを大いに悔いて、イエスの死後、原始キリスト教会の指導者として大車輪の活躍をしたことは言うまでもない。
そうそう、ウラシマさんの日記
http://frompdk.blog.fc2.com/blog-date-20110811.html
を読んでいて、『聖書』とは関係ないのだが、気になったところがあった。ちょっと引用をさせていただく。
《さういへば大昔、誰かが
「ナチスドイツでスパイをした英国人が完璧なドイツ語を話すのに、ある事でドイツ人ではないことがバレてしまった」
「不意打ちで『グッドモーニング、サー』と挨拶され、スパイはウッカリ、其れに英語で答へてしまったのだ」
と云ってゐた。》
これに類似した話が『大脱走』という映画にある。これはワシャが大好きな映画の1本なのだが、まず、物語を簡単に掻い摘んで記す。
「絶対に脱走不可能といわれたドイツの捕虜収容所から、連合軍兵士76名がさまざまな手段を駆使して脱走をする。そしてドイツの後方攪乱を図る」
という物語で、主人公たちに、スティーブ・マックイーン、チャールズ・ブロンソン、リチャード・ガーナー、リチャード・アッテンボローなど名優たちが並ぶ。
最後に名を記したリチャード・アッテンボローが演じたのが、ロジャー・バートレット少佐である。バートレット少佐、彼こそが連合軍兵士の間で「BigX」と呼ばれる脱走のリーダーだった。このバートレットに付き従うのが、サンディ・マクドナルド大尉で、彼は完璧なフランス語、ドイツ語を話せるインテリで、脱走計画の参謀格という役どころだ。
この二人が、他の76人とともに脱走する。いくつも危機をマクドナルドの語学によって切り抜けながら、もう少しで中立国に入れるという最終局面で、バスに乗ろうとするマクドナルドに、フランス人官憲が声を掛けてくる。完璧なフランス語で対応するマクドナルドだったが、バスに乗り込む瞬間に背後から「グッドラック」とさりげない言葉を掛けられる。それに思わず「サンキュー」と答え万事休すとなった。
はっきり言っておくが、そんなエピソードを思い出しましたぞ。