立川(16日目)

 午前4時30分、立川の夜が明け始めている。つい今しがたまで闇に黒く溶けていた街路樹が少しずつ青みを増してくる。
 低くたれこんだ雲の下の端が、東京電力ビルの屋上にある通信塔に引っかかりそうだ。

 いよいよ研修も3週間目に入った。気合をいれ直して後半戦をがんばるどー!
昨日、後輩たちから地元の「手羽先」、「ソーセージ」、「黒ビール」が送られてきた。早速、フロアの仲間と一杯やりましたぞ。

 さて、ワシャにちょいとした都合で、リーダー論について一席ぶつ。リーダーにはどのような能力が必要か。まず、そのあたりから考察してみたい。
 リーダーを日本語で言い換えると「統率者」とでもなろうか。統率者の条件はなんだろう。適当に列記してみる。
指導力」「牽引力」「決断力」「自信・勇気」「知識力」……いろいろあるけれど、一番最初に挙げるのは、状況を的確に把握するための「情報収集能力」にしたい。
 まずは日露戦争(明治37〜38年)に事例を求める。乃木希典率いる日本軍第三軍は旅順攻囲戦の203高地攻略に着手していた。明治37年6月26日から進軍し、都合3回の総攻撃を加えるも、結局、乃木の作戦では203高地は陥落しなかった。この攻略のプロセスには諸説がある。しかし、間違いなく言えることは、乃木の作戦本部が後方にあり、戦場の状況把握はできていなかったことである。乃木は戦場を見ずして采配を揮っていた。これは情報収集能力の欠如と言っていい。もし、乃木が戦場近くに本部を移していたならば、戦死11,000余名、負傷者25,000余名に及ぶ犠牲はもう少し圧縮されたのではないか。
 岡本薫『なぜ日本人はマネジメントが苦手なのか』(中経出版)にこうある。
「冷静・客観的な原因特定がおろそかになると事故は起きる」
 早い段階で、乃木将軍が冷静に客観的に「戦場の特性把握」、「敗因の特定」を行っていれば、状況はまた違ったものになっていただろう。
 また、細野助博中心市街地の成功方程式』(時事通信社)には、それぞれ処方箋(地域データ)の違う全国のシャッター商店街対策でこう言っている。
《地域データはどんどん細分化してきた。このあたりを「統括する部署」をそろそろ設立しないと、政策課題を突きつけてくる実態を十分に把握することができなくなる可能性が高い。これは行革によって統計部門がバランスを欠いたまま縮小され、政策現場が実態把握ににっちもさっちも行かなくなった米国の苦い経験を学ぶべきだろう。》
 なにを言いたいかというと、商店街の再生だって、リーダーは詳細な地域データの分析をしなければならないのだ。残念ながら乃木将軍には、自身の美学を追及する素養はあったが「情報収集能力」は著しく欠如していた。本来、こういう人は何万人もの人命を預かるリーダーになってはいけない。