選挙と民主主義のいかがわしさは中学校で学んだ

 ワシャは、今では物静かなタイプになってしまったんだけれど(笑)、中学生のときはやたら目立ちたがりだった。級長や学級委員になりたかったし、生徒会の役員にもなりたい、そんなガキだったんです。
 とりあえず2年生のときに生徒会の副会長に立候補した。1200人の生徒を前に、派手な演説をして対抗馬を圧倒し副会長になった。
 この副会長の半年の任期中に一つの懸案が浮上してきた。体育大会のアトラクションとして行われてきた仮装行列が年々派手になってきて、左巻きPTAから苦情が出ているらしい。うるさいPTAとトラブルを起こしたくない生徒会指導部の教師たちは、なんとか仮装行列を中止に持ち込みたいという意向があった。
 結局、その期の生徒会では仮装行列をやるのかやらないのか結論が出ず、次期の生徒会にその採否が委ねられることになる。
 ワシャは元々お祭り騒ぎが好きで、とくに体育大会の中で行われる仮装行列は大好物だった。1年生のときは、40人の大名行列をやって大好評。2年生では、ローマ帝国の奴隷の行進をやって大うけだった。だから、なんとか仮装行列を開催してほしいと思っていた。
 でも、漏れ聞こえてくる指導部の話や、事情通の生徒の話をまとめると、方向としては中止される公算が高いようだ。
 半年間、副会長を務めて、けっこう忙しかったので次期は立候補するつもりなどなかったのだが、仮装行列を中止されてはたまらない。クラスのお祭り好きの悪ガキにも背中を押される格好で、次の生徒会役員選挙でトップの会長を目指すことになった。

 立候補を表明すると、すぐさま指導部の教諭から圧力が掛かった。生徒からショッカーと呼ばれている陰気な理科教師(指導部長)から呼び出しを食らったのだ。
 ショッカーは職員室でワシャにこう言った。
ワルシャワ〜」
 ショッカーは語尾を延ばして話をする。
「今回〜、お前は会長選に出るな〜。今、生徒会の書記をやっている秀才のブリ山を会長にするから〜」
 実はこの時期、ワシャはまだ迷っていた。仮装大会続行のためとはいえ、忙しい生徒会活動など、本心ではどうでもよかったのである。でもね、「出るな」と言われれば、天邪鬼の血が騒ぐ。とりあえず「そうっすね」とあいまいに答えて職員室を後にした。
 教室にもどって、同級生に「ショッカーに呼び出されて、こんなことを言われた」と一部始終の話をすると、みんな、ショッカーが嫌いなんスね。怒った怒った。
「絶対に立候補すべし」で大勢は決まった。
 それからが大変だった。なにしろこっちは14歳の中学生だ。全ての教職員が敵に回るとなかなか動きづらい。
 例えば立候補者のポスターを校内に20箇所あるポスター掲示板に掲出するのだが、選挙管理委員会の承認印をもらわないと貼り出せない。これがショッカーの陰謀で、なかなか許可されなかった。他の候補はスムーズに事務処理されてどんどん掲示板に貼り出される。会長選対抗馬の仮装行列中止派のブリ山も、掲示板の一番目立つところに早々に貼り終えてしまった。
その後もワシャのポスターだけはなかなか承認されない。色の数が多いとか、必要以上に字が大きいとかいちゃもんをつけられて、何度も突き返される。
 その間にも、掲示場は副会長、書記、会計、風紀委員長、図書委員長、美化委員長、福祉委員長、清掃委員長、体育委員長、購買委員長などなどの候補者たちのポスターが所狭しと貼られていく。
 ワシャのポスターが承認されたころには、どのポスター掲示場にも貼る場所なんてなくなっていた。
「どこにも貼る場所がない。どうするワルシャワ?」
 ワシャを支援してくれる悪ガキどももさすがに困っていた。凸凹中学校選挙管理規則第6条に「候補者のポスターは指定された掲示板の上に貼り出すこと」とあるのだ。掲示板以外のところに貼れば、すぐにショッカーの差し金をうけた選挙管理委員たちが現れて破られてしまう。困った。

 ポクポクポクポクポクポクポクポクチーン!

「ひらめいた!!」
 ワシャは悪ガキどもに、正面玄関の一番目立つ掲示板のところに梯子を持って集合するように指示をだした。もちろん一番いい立地条件であるので、もう掲示板上には貼る余地などない。そこで、ワシャらは掲示板の直上の天井に20枚全部のポスターを貼った。これが目立つこと目立つこと。登校してきた生徒は必ず正面玄関を通過しなければならない。そうすると嫌でもワシャのどでかいポスターが目に入る。
 選挙管理規則に「ポスターをまとめて貼り出してはいけない」とはどこにも書いてない。それにワシャのポスターは掲示板の「上」の天井に貼られている。6条にも抵触していないのである。ざまーみろ。
 生徒の自治に任せるという建前上、選挙違反についての指導は選挙管理委員の生徒がすることになっている。
「20枚一緒に貼るなんて違反だ」
掲示板に張らないのは違反だ」
 と、クレームをつけてきやぁがった。
 なんとでも言え。でも、選挙管理規則には則っているぜ。文句があるなら選挙管理規則を改正してから言えよ。
 ワルシャワって嫌なガキですね。でもね、教師に操られた傀儡候補、仮装行列中止派には絶対に負けたくなかったんです。
 結果はというと、全校生徒1200人の内、800票を取ったワシャの圧勝だった。だっはっはっは。

 ところが、副会長以下は、ショッカーら指導部の推薦する仮装大会中止派の秀才連がことごとく当選を果たした。辛うじて美化委員長だけは、悪ガキ党(仮装行列推進派)から推薦を受けたやつが当選した。しかし、生徒会役員会は絶対少数の中で運営しなければならなくなった。これは苦しい。
 最後の頼みは、各クラスから出てくる級長、副級長で構成される生徒議会だが、これも担任教師の意向を大きくはずすことのない秀才が多い。発足したばかりのワルシャワ政権は、早速、難局に直面するのだった。
 つづく。