七転八倒(午前0時の報告) その1

 異変は午後3時に始まった。
 昨日のことである。昼下がり、職場で業務上の報告を部下から聞いていた。その後、一息いれようとドリンクコーナーでコーヒーを飲んだ。自席に戻り今日中に仕上げる約束の仕事に着手した。しばらく書類を眺めていると汗が額から滴り落ちてくる。
「今日はそんなに暑いのか」
 いやいや、窓から入ってくる風は心地よい。むしろ肌寒いくらいである。では、この汗はなにか。おや、胸のあたりがムカムカし始めた。この兆候は……。
 つわりか?
 そんなわけはない。
 あわててトイレに駆け込んで、激しく嘔吐をしてしまった。思いきり吐いたつもりなのだが、胸の不快感は消えず、5分程の間に数度重ねて吐いた。いやな汗が全身から噴き出している。こりゃぁいけない。
 自席に戻り、再び書類に目を落とすのだが、胸の不快感で集中力が切れていた。そんな様子を見た部下が「課長、顔色が悪いですよ」と言う。
「そうか?」
 と生返事をしている最中にも再びえずきが始まった。これは明らかにおかしい。あれだけ吐いたのだ。二日酔いならばとっくにすっきりしているはずなのに。
 これは医者に行かなければ、ちょいと不味そうだ。部下にその旨を伝えて、急遽、退庁したのだった。

 ワシャの家は職場から15分程度と近接している。保険証を取りに帰らなければと、自宅へ急ぐのだが、この15分が恐ろしく遠い。信号待ちをしていると立っていることもままならない。職場で救急車を呼んでもらった方がよかったかなぁ、などと考えながら、それでもようやく自宅に戻り、誰もいない居間の真ん中でへたり込んでしまった。
 家に帰っても何度も吐いた。脱水症状を起こしてはいけないと、アクエリアスを補給するのだが、飲んだ端から吐いてしまう。こうなると吐くために飲んでいるような気もする。もう医者に行く気力も失せた。そのまま、倒れこむようにして居間で寝入ってしまった。

 夕方に一度、意識が戻った。「今日は読書会がある」という思いがワシャの意識を甦らせたのである。しかし、起き上がることはできない。仕方がないので、読書会のメンバーのパセリ君に電話をして、体調不良で欠席する旨を伝えた。
「走り過ぎだよ」
 と忠告を受けたが、これは走り過ぎと言うよりも、何かに中った感じなんですけどね。昼に食べたアジのフライが悪かったのかなぁ。
 午後6時には、胃の中のものをすっかり出し切って、少し楽になっていた。2階の寝室に這うようにして上がり、そのまま床についた。
(下に続く)