ダッシュの日々

 忙しい日常が続いている。昨日も午前中は、会議や打ち合わせがびっしりと組まれていた。一つの会議は予約を入れた部署のミスで会議室名が違っていた。ギリギリで会議室を渡り歩いているワシャは、「次は本社内の会議室だから移動に2分もあれば大丈夫」と高を括っていた。朝一番の会議を終えて、さて、次の会議室に行くと、ありゃ?全然関係のない人たちが打ち合わせをしているではあ〜りませんか。
 部下に確認を入れて調べてもらうと「会議室は第38会議室だそうです」という答えが返ってきた。ワシャの会社は、本社ビルの周りに複数の建物を所有している。第38会議室というのはここから400メートルほど離れたところにある。
 久々のダッシュだった。小脇に資料の入ったカバンを抱えてひたすら走った。その会議ではワシャが一番のペースケなのだ。遅れるのはちと恰好が悪い。いやー、何年ぶりかの400メートルダッシュは堪えましたぞ。
 昨日は寒い日だったが、会議をするワシャは汗だくで、ワイシャツの袖をまくりあげて、扇子をバタバタあおぎまくっていた。
 午後一番で、施設建設の会議があって、それが早めに終了した。このため2時ごろから1時間ほど時間が空いた。ラッキー!
 久々の自席だわさ。
 その時、ワシャの机には12冊の本が積んであった。すべて「観光」についての本で、部下にあちこちからかき集めてもらったものである。
井口貢『観光学への扉』(学芸出版社
ジェームズ・マック『観光経済学入門』(日本評論社
佐々木一成『観光振興と魅力あるまちづくり』(学芸出版社
安島博幸『観光まちづくりのエンジニアリング』(学芸出版社
などなど……。
 目次から関連のありそうなキーワードを拾い出し、そこを重点的に読んでいく。ううむ、「観光」も奥が深いですな。本を読んでいると1時間なぞ、「あっ!」という間だった。
 部下から「課長、そろそろ次の会議が……」と言われて、時計を見れば、あららら、もう3時2分前ではないか。
「何でもっと早く教えてくれないの?」
 と抗議したが、声を掛けるのは3回目で、ワシャは前の2回に生返事をしていたらしい。
 えらいこっちゃ。
「会議室はどこ?」
「第38会議室です」
「またかよ、本社ビルに会議室はないのかい!」
 ワシャは再び資料を抱えて400メートルダッシュにチャレンジするのだった。やれやれ。