錦秋の歌舞伎 その3

(上から続く)
 最後に一点だけケチをつけたい。市川團蔵の「日本駄右衛門」である。白波五人男のリーダーであるとともに、六十余州に隠れのない賊徒の首領(ちょうぼん)である大盗賊の張りがない。なんとなく小さいのである。声も出ていないし、その声に凄味がないのだ。
 以前に中村富十郎丈が「日本駄右衛門」をやったのを観た。富十郎丈は小柄な人である。身長の公称163センチとは言っているが、実際には160センチあるかないかといったところだろう。
 この小柄な老人が「日本駄右衛門」を演じると、これが大きいのである。もちろん、富十郎丈の演技力、存在の大きさもあるだろう。声も太く地響きのように伝わってくる。しかし、それだけではないのである。実際に物理的に大きいのである。
 稲瀬川勢揃いの場では、下駄の歯が他の連中の3倍はあろうかという高下駄にして、百日鬘――(ひゃくにちかつら)盗賊や囚人などの役に用いる鬘、石川五右衛門の頭髪で有名――を普通の人が被るものより一層高くして身長を稼いでいるのだ。だから、背の高い左団次あたりと並んでも遜色がない。
 富十郎丈を見習って團蔵にはもう少し頑張ってもらいたい。

 歌舞伎は9時に終わった。その後、伏見の居酒屋で反省会をする。そこで、ヒラメのお刺身で一献。締めは、名古屋名物の「天むす」をいただいた。あー美味しかった。

 あ、そうそう、終了後、御園座南の三蔵交差点で信号待ちをしていると、片岡亀蔵さんが普段着で目の前を通り過ぎて行った。三蔵通りを東に向かったので、きっと後援会の人と一杯やるんだろうな、と思って見送ってしまった。ワシャは亀蔵のファンなので、サインでももらえばよかったと後悔している。