錦秋の歌舞伎 その2

(上から続く)
 そして、菊之助の弁天小僧である。この役は菊五郎家のお家芸といっていいだろう。実は、ワシャは菊之助の弁天小僧は3回目だった。最初は平成8年の歌舞伎座で、そのころ菊之助は、まだ18歳の少年だわさ。振袖を来ても、体型がまだ出来上がっていないのか、細っぽくって鬘をつけるとまるでマッチ棒のようだったことを記憶している。
「知らざぁ言って聞かせやしょう……」も何だか声ばっかりが上ずって、必死にセリフを言っているという観が否めないわいなぁ。
 2度目は、3年後の御園座だった。この時、菊之助、21歳。歌舞伎座の時よりっもぐっと腕を上げていたし、着物の着こなしも良くなっている。でも、やっぱり体型が細いのか、マッチ棒の印象はそのままだった。
 それから概ね10年が立つ。久々の菊之助菊之助を楽しみにしていた。あの少年も33歳になっている。ずいぶん精進もしているようだから腕を上げたことだろう。
「知らざぁ言って聞かせやしょう」
 おおお、声も格段に良くなっているし、舞台での存在感もある。体が大きくなって、大人の役者に成長していますぞ。
「浜の真砂と五右衛門が……」
 う〜ん、キセルを扱うところも自然に出来ている。まずまずといったところだ。
「……それから若衆の美人局、ここやかしこの寺島で……」
 滑らかにセリフが続く。うまくなったのう、菊之助
「小耳に聞いたとっつあんの、似ぬ声色で小ゆすりかたり」
 およよ、ここは「小耳に聞いた祖父さんの」ではあ〜りませんか。五代目の菊五郎(現菊五郎は七代目)が祖父の三代目のことを織り込んでセリフにしたもので、菊五郎家では「祖父さん」というのが決まりではなかったのか。それを「とっつあん」と言ったということは、菊之助から見て「父」、つまり七代目の菊五郎を示しているということで、「そう変えてきたか」と、ついニンマリとしてしまった。これもうれしい改ざんである。
(下に続く)