リアリティのない映画の予感

 昨日、日曜日だけどちょこっと仕事に行った。その帰りに書店に立ち寄る。そこで面白い本を見つけましたぞ。
『藩祖の肖像画』(新人物往来社)である。
 内容は、戦国時代から江戸初期にかけて大名家の基礎を築いた殿様などの肖像画をあつめて解説した本で、80人ほどの大名が顔を連ねている。
 一番最初に登場するのは、やはり江戸幕府の礎をつくった徳川家康だ。三方ケ原の合戦のあとで憔悴しきって困惑する若き家康の図である。次ページは、束帯姿の晩年の家康の絵が出てきた。と思ったら、その肖像画は家康ではなく、秀忠だった。ああ、やっぱり親子なんですな。縦に短い頭蓋、ふくよかな顎、耳たぶの大きいところなど家康とよく似ている。これが三代の家光になるとかなり違ってくる。家光の母は織田信長の姪である。それゆえだと思うが、面長になって、目も切れ長になっていく。アクの強い家康顔がすっきりとしてくる。
 それにしても大名たちの肖像画は見ていて飽きない。絵師たちはかなり正確に本人の特徴を捉えている。福井藩主の松平吉品(よしのり)は、眉間に深いシワを刻み、目も三白眼で、いかにも頑固そうな面差しを見せている。こんな風に描いて殿様は納得したのだろうか。
 すごいのが福岡藩二代藩主の黒田忠之である。下がった眉毛、魚類を思わせるギョロ目、太い鼻っ柱、への字に曲がった大きな口、これじゃぁアンコウだ。立川談志にも似ている。
 NHKの大河ドラマを見ていると、だいたい戦国大名というのはイケメン俳優が演じているが、実際にはブ男もいたし、いかつい鬼瓦のようなのもいた。実に個性的だった。わずか80人ばかりだが、そのことがよく判る。

 上記の本と一緒に「SAPIO」の最新号を買った。その裏表紙が映画の宣伝だった。ベストセラーとなった、湊かなえ『告白』(双葉社)の映画化である。ほう、あの問題作が映像になるのか。裏表紙1面を使った宣伝は下半分が主役の松たか子(悠子先生)とその教え子37人の集合写真である。もちろん松たか子は綺麗だ。そして男子17人、女子20人がことごとくイケメン、カワイ子ちゃんなのだ。一人ぽっちゃり系の女子がいるけれど、その他の19人は、どの子をとっても普通の中学校に行けば、まずトップクラスの人気の女子になること請け合いだ。
 ワシャは小中高と何十というクラスを見てきたが、こんなイケメン、美女ぞろいのクラスなど見たことも聞いたこともない。こんなリアリティのないクラス編成をしているようじゃ、本編を見るまでもない気がしますぞ。多分、映画は小説を超えられまい。