東京大学の使い道 その1

 司馬遼太郎が『八人との対話』(文春文庫)でこんなことを言っている。
《つまり東京大学は明治国家の長男であったために、長男としていろいろなことができなかった。京都、東北、九州の各大学は次男としてできたので自由だったと。》
《とくに、明治期の東京大学は、新文明の吸収と分配装置というような存在だったので、「勝手に思い込むな、勝手なことを言うな」という姿勢がつよく、むしろ独創はいけないという雰囲気が、当然できた。》

 コラムニストの勝谷誠彦さんがメルマガで井戸敏三兵庫県知事のことを話題にしていた。井戸知事、東京大学法学部である。その後、自治省に入省し、自治大臣官房審議官まで昇ったところで、兵庫県の副知事に転出し、その後、知事となって3期目を迎えた。きっとむちゃくちゃ優秀な人なんだろうね。でも、どうやらバカらしいとも噂されている。
 2008年の近畿ブロック知事会議において、
「関東で震災が起きれば東京は相当なダメージを受ける。これはチャンスですね」
 と言っちゃったんですね。この人の頭の中から「大地震が起きれば多くの犠牲がでて人々が大変な苦労をする」という部分が完全に欠落してしまった。「関西の復興」しか念頭にないからこういった不用意な発言につながる。エリートコースを一度も踏み外すことなく還暦を越えてしまった人間の悲劇と言っていい。
 それにしてもキャリアの天下り知事の多いことよ。今、ざっと数えただけでも、47都道府県中28人が元官僚である。とくに多いのは自治省であることは言うまでもない。今や知事職は高級官僚の天下り先となっていると言っても過言ではあるまい。
(下に続く)