鑑定時間の真贋

 午前4時、窓の外の雨音に眼が覚める。久々の大雨だ。
 しかし、昨夜の仕事はきつかった。ある業務について顧客からクレームがついた。その事後処理に奔走していたのだ。それにしても性質の悪いクレーマーだった。取り敢えず会社の不利益は回避できたが、今後、どう展開するか余談を許さない。二手、三手先まで布石を打っておくことにする。

 昨日の朝日新聞に気になる記事があった。一般から寄せられたテレビに関する質問に答える「はてなTV」というコーナーである。
 質問は、「開運!なんでも鑑定団」についてのものだった。
「テレビを見ていると、鑑定士が数分でお宝を鑑定していますが、実際はどうなのでしょうか?」
 という質問に対して回答はこうだ。
「プロデューサーによれば、スタジオでの実際の鑑定時間は、ほんの3分から5分。放送前に丹念に見ていると思いきや、そこはプロ中のプロ。お宝の真贋は一目でわかる」
 のだそうな。

 これはウソです。

 なんで、担当プロデューサーがこんなウソをつくのだろう。
開運!なんでも鑑定団」は、お宝大募集の際に、写真を送ることが条件についている。写真を見てどのお宝を番組で取り上げるか選択するためだ。当然のことながら器、絵画、軸物、玩具などバランスよく配置して視聴者が飽きないように演出をしている。
 番組はモノの真贋についてもっとも気を使うところだろう。その重要なところを、プロの鑑定士たちが「ほんの3分から5分」のやっつけ仕事で片付けているわけがない。送付写真をもとにして真贋の検討がなされているはずである。
 鑑定に関して一例をあげる。江戸時代の文人研究で有名な博物館の学芸員からこんな話を聞いた。
「うちの博物館にその文人関連の軸物が頻繁に持ち込まれます。古美術商、古書店、もちろん個人からも購入希望が入ってきます。鑑定士の田中大さんの思文閣からの持ち込みもありますよ」
「持ち込まれても、数分で鑑定して購入するなどということはありません。一旦、お預かりをして学芸員、研究者などの目を結集して真贋を確認します。最低でも1週間、難しいものになると1ヵ月かかることもあります」

 現実はそんなところだろうね。中島誠之助さんだって、真贋の見極めの難しさについてはその著書『ニセモノ師たち』(講談社文庫)の中で言っている。
 プロ中のプロだって突然見せられた骨董に適切な判断が下せるわけがない。なんで担当プロデューサーはそんなつまらないところにウソをつくのだろう。あんたが贋物ってことになっちまいますぞ。