不思議な出来事

 先日のこと、午後6時をまわっていたと思う。所用で名古屋に出るため最寄りのJR駅のエスカレーターを昇っているときである。下り階段を友だちのYが降りていくではあ〜りませんか。彼はトヨタ系の会社に勤めているのだが、この4月から新工場建設のために長崎県に単身赴任している。
「なんだ、こっちに戻っていたのか」
 声を掛けようと思ったが、前後を人に挿まれていた。大声を出すのも格好が悪い。ぐずぐずしている間に、Yは特徴のある歩きかたで階段を降りきって、自宅の方向に消えていった。
 8ヶ月くらい合っていない。久しぶりなのであとを追おうとも思ったが、すでに下り電車の到着が告げられている。ワシャは改札に向かいながら携帯を取り出して、Yに電話を掛けた。
 出ない。
 あいつはいつも携帯を切っている。仕方のないやつだ。

 会議の最中にワシャの携帯が振動した。見ればYだった。暫し会議を中断し、会議室から外に出る。
ワシャ「ワルシャワです」
Y「おう、どうした?何かあったか?」
ワ「おうおう、お前、こっちに戻ってたのか?」
Y「え?」
ワ「さっき、駅で見かけたぞ」
Y「え?」
ワ「午後6時過ぎにQ駅にいたじゃないか!」
Y「おまえ、なに言ってんの?」
ワ「おまえ、ジーンズ履いてさ、ナップザック背負って家のほうに歩いて行ったじゃん」
Y「おれ、今、長崎で打ち合わせしているんだぞ。どうやってQ駅に行けるの?」
ワ「え?」
Y「恐いことを言うなよ」
 しかし、あれは確かにYだった。背格好といい、ヘアスタイル、横顔、ファッションセンス、それになによりあの特徴のある歩きかた……ガキの頃から、一緒に遊んできた野郎だ。見間違えるはずがない。階段は明るかったし、その時に掛けていたメガネは精度のいい方のやつだった。あれは間違いなくYだ。
 だが、携帯の向こう側のYが動揺しているのが解ったので、ワシャはあっさりと、人間違いだったことを認め、また、三河へ戻ったら飲みに行こうと約して、携帯を切った。

 でもね、あれは絶対にYだった(汗)。