階段落ち

 昨日の日記で新選組に触れた。新選組と言えば司馬遼太郎の『燃えよ剣』だが、いろいろなところで新選組は映像や文学になっている。映画だと階段落ちというのが有名なシーンになっていますよね。池田屋の階段、実際には三尺ほどの狭い階段なんだけど、映像になると幅が二間もある大階段に化けてしまう。映画のシーンでは、新選組の急襲をうけ二階に貧乏くさい勤王派の浪士がわらわらと走り出てくる。それらを追ってぶっさき羽織を颯爽とひるがえし近藤勇会津虎鉄を手に現われる。「鋭!」と虎鉄を振ると、斬られた浪士が階段を転げ落ちていく。近藤役者の見せどころだ。

 昨日、本社の6階で大きな会議があった。そこに参加するために、ワシャはパソコン、iPad、資料4冊、ミネラルウォーター、エスカップドリンクなどを鞄2つに詰めて、持参していた。会議は午前10時に始まって午後5時に終わった。エレベーターは混んでいたので、裏の階段で降りることにした。1フロア降りると、そこは社外役員の控室になっている。そこである役員に呼び止められた。少し、会議のやりとりのことなどを雑談し、役員は控室のほうに、ワシャは階段を降りようと歩を進めた。
 昨日は公式の会議だったので履きなれない黒い革靴を履いていた。その先っちょが階段の滑り止めに引っ掛かった。ワシャは階段の一番上で体勢を崩した。体の重心は完全に踊り場の床から階段の空中に移ってしまった。右手に持った鞄2つがさらにワシャの体を外へと引っ張る。この時点でワシャの体は宙に浮いている。
いつものことながら、転倒している最中には、刹那にいろいろと考える。
「パソコンとiPadはオシャカだな」
「あばら2本ではすまないな」
「打ち所が悪いと救急車かもね」
 その時、左手が階段の手すりに触れた。ワシャは藁にもすがる思いで、手すりにすがった。階段の最上段から飛び出していたワシャの体を左腕一本が止めた。肩から脊髄にかけて妙な力が加わって骨が「ゴギゴキ」と鳴る。が、階段下まで落ちれば「バキバキ」になってしまう。多少の関節痛くらいは我慢のしどころだ。左腕が辛じて体を支え、左足が上から3段目に着地した。左手首を支点にして左腕と左足に力を込め、体を左に回転させる。外へ向かっている力をなるべく減じたかったのだ。これでバランスを取り戻した。右足が5段目の階段について、鞄は資料の入っているほうが壁にぶつかった。パソコン類は直接の衝突をまぬかれた。落下するときに「あああっ!」と声を出していたので、役員が戻ってきて階下を覗いてくれたが、ワシャはなんとか手すりを握って体勢を立て直していたので、愛想笑いをすると、役員は再び控室の方に消えていった。
 危なかった。階段落ちをやらかすところだった。

 以上を、夕べ、プライムニュースを見ながらiPadでペンシルを使いながら文に起こしていた。落下未遂の顛末をほとんど書き終わって、どこかにタッチしてしまったんでしょうね。そのメモが突然落ちた。そしてどこにも無くなった。だから朝から思い出し思い出ししながら、書き直している。

 皆さんも落ちるのには気を付けてくだされ。