歌謡三題 その2

(上から続く)
 家に帰ってテレビを点けると、NHKBSで「叙情歌大全集」をやっていた。先日、友人にもらった「千亀女(せんがめじょ)」をチビチビやりながら聴く。
ガンダーラ」もいいけど「叙情歌」もいいなぁ。由紀さおり安田祥子が「花」を唄う。
《春のうららの〜すみだがわ〜》
 由紀さおりの透きとおった歌声はまさに天女の音色だ。すんばらしー!そしてなによりも叙情歌というのは歌詞がいい。3番のこのフレーズ、覚えていますか。
《げに一刻も千金の〜ながめを何にたとふべき〜》
「げに」ですぞ。「げに」……
 最近、「げに」なんていう言葉を聞いたことがありますか。「げに」は漢字で書くと「実に」である。「まことにこの一時は千金にあたいする眺めである。これを何にたとえたらいいのだろう」というような意味なのだが、実は(この「実は」は「げは」ではなく「じつは」ですぞ)、このフレーズは歌舞伎からきているとワシャは見ている。
「げに」の直前に「おぼろ月」が出てくるのだが、そのあたりが、「三人吉三廓初買」(さんにんきちざくるわのはつがい)で隅田川の河岸に立つお嬢吉三の一人台詞とよく似ている。
「月もおぼろに白魚の、かがりも霞む春の空」
 春、おぼろ月、隅田川、作者の武島羽衣のイメージの中に、お嬢の見た風景もあったに違いない。そこから歌舞伎つながりで「楼門五三桐」(さんもんごさんのきり)の冒頭の石川五右衛門の台詞だ。
「絶景かな絶景かな。春の眺めはあたい千金とは、小せえ小せえ」
 春、ながめ、千金が入っているでしょ。この二つから3番の詩ができたと思いますぞ。
 話が「叙情歌」からずいぶん離れてしまった。元に戻そう。
 さて、NHKは2時間の特番で懐かしい歌を聴かせてくれた。
「夏は来ぬ」
「冬景色」
「紅葉」
「朧月夜」
「夏の思い出」……
 おおお、名曲ばかりではないか。そして、名詩ばかりではないかいな。
 ホトトギスが忍び音をもらし、朝日に狭霧が消え、山紅葉は夕日に映え、夕月がかかって菜の花の匂いは淡く、湿原は石楠花色にたそがれていく。
 う〜む、日本の叙情歌の奥は深い。日本人に生まれてよかったとしみじみ思った。タケカワユキヒデのコンサートよりテレビの歌番の日本の叙情歌に感動してしまった。

 美しい風景を表現する言葉は「チョーきれい!」だけではないということがよく理解できたのだ。
(下に続く)