小唄から神田祭

〜さとをはなれし〜草の家に〜二人が外は虫の声〜すきもる風に有明の〜消えて嬉しき窓の月〜ペペペペペン
 いやー、昨日、小唄を聴く機会があったので小雨模様だったが岡崎まで出掛けましたぞ。

 四畳半のくらいのちんまりした座敷でさ、小唄のお師匠さんが三味線を爪弾きながら、声が透き通っているんだ。でも、気だるそうで、それでいて粋に唄ってごらんなさいよ。むふふふふ……お酒がついつい進んじまいますぞ。
 唄いおわって三味線を置くと、師匠は膝を詰めてくる。そこで白魚のような指で銚子をつまむと「おひとついかが……」とこうくるね。ここであんまりベラベラとしゃべっちゃいけねえな。「うむ」とか頷いてお猪口をちょこっと差し出すんだ。おっとっとっと。この後の飲み方が難しいなぁ。むやみに飲めば、「この男は飲んべいだよ、こんな飲んべいは嫌いだよ」ってんで、ずどーんと肘鉄を食っちまわぁ。師匠が飲める口だと「この男はお酒も飲めないんだねぇ、はなせないやつだねぇ」ってんで、これもずどーんと肘鉄だ……

 失礼しました。大半が妄想でした(笑)。話の後半は、落語の「湯屋番」でしたね。

 ほろ酔いでの帰り道、それでも寄っちまうのが書店なのだった。木下直之『鬼が行く』(平凡社)など数冊を求める。『鬼が行く』は神田祭の解説本だ。なんでそんなものを買ったかというと、5月10日に東京にいたわけだが、その時、四谷から乗った中央線に、揃いのしるし半天を着たおきゃんな姐さんがたの一団に出くわした。髪を後ろで引っ詰めて豆絞りの手拭いをきりりと締めたところなんざいなせだねぇ。
 それを思い出したんで買ってしまったのじゃ。早速、家に帰って読んだ。あのおきゃんな姐さんたちは、背中に「枡に一の字」が染めぬかれていた。なるほど、一番大伝馬町の皆さんだったんですね。また、勉強になった。めでたしめでたし。