回鍋肉(ホイコーロウ)その1

 高校時代のことだ。昼飯は母親のつくった弁当だった。ちょうど色気が出てくる頃で、学生カバンはなるべく薄いのが格好良く、だから弁当箱を立ててカバンに入れていた。
 3時間目の授業が終了した後の放課がワシャらの仲間のランチタイムだった。校舎の端っこにある非常階段の2階と3階の間の踊り場が食堂だ。そこに数人のワルガキが集まってきてちょっと早い昼食に舌鼓を打つ。
 その日、ワシャはカバンから弁当を包んだ布袋を取り出す時、いやーな予感が鼻についた。少し袋が湿っている。そこが臭う。はは〜ん、弁当箱のおかずの汁がこぼれたな。ワシャは弁当を慎重に踊り場まで捧げ持って、階段に腰を下ろし、おそるおそる蓋を開けた。
「あんぎゃー!」
 ワシャはあまりの恐ろしさに悲鳴を上げた。あわてて仲間がワシャの口をふさぐ。先生に聞かれでもしたら、そして早弁しているところを見つかったら大目玉だもんね。ワシャは仲間のいましめをはずして「大丈夫だ」と答えた。そして深呼吸をすると、もう一度、弁当箱の蓋を開けた。やはり見間違いではなかった。アルミの大型の弁当箱は仕切りが1枚あって、小さい方がオカズ、大きい方にご飯が入っている。オカズはエノキの卵とじ醤油味、ご飯はその汁で茶色く染まっていた。通学時に何度も揺すったせいで、汁の染みたご飯は餅のように固まっている。箸を突き刺して持ち上げると、そのまま真四角のご飯が箱から飛び出してきた。これはツレには見せられない。大笑いされ卒業まで「角飯男」とかあだ名されてバカにされるわい。あわてて四角いご飯を弁当箱に収納して、何食わぬ顔で蓋を閉じた。やれやれ。
「ありゃ?ワルシャワ、お前、弁当食べないの」
 早速、目敏いヤツが突っ込んでくる。
「いや、あんまり腹へっていないから」
 と苦しい言い訳をするしかない。
「めずらしいじゃん」
「うるせー!」
(下に続く)