回鍋肉(ホイコーロウ)その2

(上から続く)
 4時間目の授業は空腹で空腹で、授業に身が入らなかった。ツレたちはというと、腹がふくれたので睡魔に襲われたんでしょうね。みんな寝てやんの。
 弁当はないし、パンも頼んでなかった。このままでは何も食わずに午後の授業ということになりそうだ。いやいや、空腹では脳に栄養がいかず、授業が頭に入らないぞい。仕方がない。ここは緊急避難ということで、学校の外へ食事に行くとするか。本当は行きたくないんですよ。でも、腹が減っては戦ができぬというではあ〜りませんか。昼休み、ワシャは先生の監視がある正面玄関を避けて、裏のフェンスの破れ目から外へでたのだった。

 ワシャはなるべく人目につかないように、裏道をJR駅前に向かった。一軒の中華料理店があったのでそこに飛び込んだ。とにかくどこでもいいのだ。一刻も早く身を隠したかった。
 そこはテーブルが8つほど並べられた小さな店だった。店内は駅周辺のサラリーマンたちが屯している。突然、学生服が入ってきたので驚いたようだが、また、すぐ飯に向かって黙々と食事を続けた。ワシャは隅のテーブルに座る。中年のオバさんが水を運んできて「注文は?」と訊く。なんだかよく解らないので、壁に「ランチA,B,C どれも360円」と書いてあったので、細かい説明書きは読まずに「ランチA」と答えた。何が出てくるのか、まったく解らないが、出てきたものを食えばいい。まさか食えないものは出てこないだろう。
 これが回鍋肉との始めての出会いだった。こんな美味しいものが世の中にあったとは……高校生のワシャは感涙に咽びながら、ゆで豚とキャベツの辛味噌いためを食したのだった。
 その後も駅前の中華料理屋に足しげく通った。1ヵ月もすると、ワシャの仲間たちはほとんどその店に出入するようになった。店の大将の好意で、高校生には裏の座敷を開放してくれて、大人たちの目に触れずに昼食を楽しむことができたのだった。常連になってから大将に聞いたのだが、ワシャの高校の指導部の教師もたまに来るらしく、出くわさなくて運がよかったわい。

 たまたま、昨日、回鍋肉を食べて、そんなことを思い出した。