泡盛

 沖縄のお土産で泡盛をいただいた。アルコール分43度の古酒である。ワシャは個性のはっきりしたクセの強い酒が好きだ。だから芋焼酎をメインにして泡盛なども時々飲む。早速、グラスに透明な液体を注ぎ、そのままを口に含む。米のもろみの香りと、ほんのりとだが甘く香ばしいナッツのような匂いが一気に鼻梁に抜ける。わずかな熱さを伴ないながら酒が喉を越していくと、舌の上に淡い甘味だけが残る。美味い!めちゃめちゃ美味い!エメラルドグリーンの海が脳裏に広がりましたぞ。

 ワシャが「泡盛」という言葉を知ったのは中学生の時のことである。その頃、近くの居酒屋……ではな〜い。真面目なワシャは中学校の図書館で知ったのじゃった。
《夕暮れの椽先に花むしろを敷かせ、片肌ぬぎに団扇づかひしながら大盃に泡盛をなみなみと注がせて、さかなは好物の蒲焼を表町のむさし屋へあらい処をとの誂え……》
 樋口一葉の『たけくらべ』の中に泡盛が出てくる。この文章を読んだ時には「酒」というイメージが浮かばなかった。ただ「大盃に注ぐんだから液体なんだろう」とか「泡が盛られている」という字面から「ビールのようなもので、泡があふれかえっているのだろう」と思っていた。ちょうど沖縄に「ぶくぶくー」というお茶があるでしょ。あんなイメージを思い描いていた。実際に泡盛の正体を知るのは、ずいぶん後になってからで、見た目は無色透明な普通の蒸留酒だったので拍子抜けした記憶がある。

 司馬さんが『街道をゆく』の中で泡盛のことについて書いてあったのを思い出す。それを書庫から引っ張り出してきた。『沖縄・先島への道』を読みながら「トーマーミーヌファーチャンプルー」を肴に泡盛酒盛りというのも乙なものですな。めでたしめでたし。