サル事件(解決編)

(上から読んでね)
 中坊だったが、ワシャは冷静に、「サル」なんて恥ずかしいあだ名なんかいらねーじゃん、と思った。とくにワシャは幼稚園の頃からあだ名を付けられたことがない。「ワルシャワくん」あるいは苗字の冒頭2文字で「ワルくん」と呼ばれていたから、あだ名に思い入れなどなかった。きっとこの二人だって最初に「サル」と呼ばれた時には違和感があったと思うが、長い歳月、「サルサル」と呼ばれて、それが定着してしまったのね。
 その後も「サル」が蟠りとなってT小出身者とH小出身者の間で小競り合いが頻発した。仕方がないので、知恵者のワルシャワくんがいい案を出したのだった。
 その案はこうだ。
「二人とも『サル』というあだ名が気に入っている。それぞれ手放したくない。しかし、周囲の人間は『サル』が二人いることでいろいろ混乱をきたす。だからT小のサルは今後、『サルキチ』、H小のサルは『サルゾウ』と呼ぶことにする」
 渋々ながら二人のサルは、いつまでも揉めているわけにもいかないのでその案を了承した。これでK中サル事件は無事に解決したのだった。めでたしめでたし。

 冒頭にK中は5つの小学校が一堂に会して……と書いた。T小もH小も大きな学校に混じって、S小という小さな分校の子どももいた。そしてそこにも『サル』がいたのだ。『サル』というあだ名はつくづく安易なあだ名ですな。
 S小のサルと少数のS小出身者はこのサル事件の成り行きを固唾を飲んで見守っていた。彼らは彼らなりに『サル』はS小のサルが一番相応しいと思っていたが、弱小派閥なので言い出せなかったのだ。ところが大派閥のサルたちは『サルキチ』『サルゾウ』になってしまった。もうサルと呼ばれるヤツはいない。S小出身者は『サルキチ』『サルゾウ』が定着するのを待って、S小のサルをサルと呼び始め、結局、未だにサルと呼ばれているのはそいつだけである。S小のサルは漁夫のサルを得た。