サル事件(発端編)

 ワシャの卒業したK中学校はマンモス校だった。5つの小学校の生徒が一堂に会し、一学年400〜450人くらいが犇めき合っていた。
 中学一年の四月早々、T小学校出身の男子と、H小学校出身の男子の間で喧嘩が始まった。最初は口喧嘩だったのだか、そのうちにエキサイトしてつかみ合いが始まる。それぞれの小学校の仲間が応援に入って、結構、派手な立回りになった。最終的に担任が割って入って喧嘩を収め、最初に口喧嘩を始めた二人にその原因を糺した。
 二人が喧嘩になった原因はこうだった。
 T小学校出身の男子とH小学校出身の男子には、ある共通点があった。それはあだ名である。二人ともサル顔だった。そして運動神経が良く、とくに鉄棒が得意だったりするので『サル』というあだ名がついた。T小のサルと、H小のサルが中学校で一緒になったわけだ。最初はお互いに相手のことを知らなかったが、「サル、サル」と呼ぶ声がするので反応すると、どうも自分のことではないということに気がついた。
「どうやらオレ以外にも『サル』というヤツがいるらしい」
 T小のサルは、もう一人のサルを探し始めた。そして別のクラスにいたH小のサルを見つける。そしてこう因縁をつけた。
「おめ、サルっちゅうのか?」(訳:おまえはサルと呼ばれているのか?)
「なんじゃ、おめぇ、気安くサルちゅうな」(訳:なんだ、おまえは、気安くサルと言うな)
「おら、T小のサルっちゅうもんよ」
「おめぇがT小のサルか?」
「K中にサルは二人いらねえだろ」
「オレもそう思っとった」
「どっちがサルか決めんとな」
「もちろんオレが本物のサルだ」
「ちゃう(訳:違う)オレじゃ」
「どうしてもサルをあきらめられんか?」
「オレは小1からずっとサルだ」
「オレなんか幼稚園からサルだった」
「サルはオレじゃ!」
「オレがさるじゃ!」
 サルというあだ名の取り合いが喧嘩の発端だった。
(下に続く)