アスリートの発言

 高橋尚子が名古屋で27位だった。惨敗だ。しかし8月に半月版を手術して、よくぞここまで戻してきた。その努力には素直に拍手を送りたい。
 でもね、「あきらめなければ夢はかなう、ということを伝えられるレースにしたい」とレース前に口走っていたことが、ずっと気になっていた。
名古屋国際女子マラソン」に北京五輪の切符をかけて臨んでいるのは高橋だけではない。他の上位選手だってあきらめずにずっと苦しい練習に耐えてがんばってきたのだ。少なくともこのレースでは優勝しなければ北京への切符には手が届かない。つまり夢がかなう可能性があるのは1人だけということになる。「あきらめずに努力しても夢はかなわないこともある」これが現実なのだ。そんなシチュエーションで万人に「あきらめなければ夢はかないますう☆☆」などというメッセージを送っても意味がない。「あきらめない」と一人よがりに念じるだけで夢がかなうんだと思わせてしまうことは危険だ。そういう意味から言えばQちゃんは負けてよかった。
 イチローならこう言う。
「夢をつかむことというのは、一気にはできません。ちいさなことをつみかさねることで、いつの日にか信じられないような力を出せるようになっていきます」
 思うのではなくて、小さなことを日々積み重ねていくことが重要なのである。ぜひ高橋選手には次のレースで復活してもらいたい。そしてあきらめずにこつこつと努力をすれば夢に近づけるんだということを立証してほしい。
 イチローはこうも言っている。
「人のために何かをしようとしたときは、だいたいうまくいかないものです」
「シーズンはじめに安打200本という数字を頭におくが、それがいかにタフなことか、今回よくわかりました。『簡単にクチにできないな』という思いも強いです」