傍若無人な親子?

 整形外科の待合室でワシャは『幸福論』を読んでいる。ワシャの右手のソファーでヤンキーな親子連れ3人が診察を待っている。子どもが小学校5年、2年であることは親子の会話を聞いていて分かった。
 この5年のガキの態度が悪い。ソファーの上に足を投げ出し、寝転んでニンテンドーDSをやっているのだ。弟はというと待合室の中を走り回っている。時折、ブーメランのように戻ってきて、兄貴のゲームの進捗を覗いている。
「テレビのチャンネル替えちゃいけない?」
 ゲームをしながら兄貴が母親に訊いた。ロビーのテレビは福田首相が映っている。はは〜ん、この時間帯に別のチャンネルでアニメでもやっているんだな。
「だめよ、家のテレビじゃないんだから」
 ほほ〜う、おっかさん、判っているじゃあ〜りませんか。
「ふう〜ん」
 およよ、ガキも納得しおった。聞き分けのいい子じゃないか。でもね、自宅じゃないんだからソファーに寝そべっているのはよくないよ。そろそろお節介なオジさんが注意しちゃうよ。
 と思ったところへ、小さな女の子を連れた母親がやってきた。二人並んで座れるところはない。ワシャの席と寝そべったガキの間に1人分の席が空いているだけだ。ワシャはさりげなく席を立とうとしたのだが、その前にヤンキーなおっかさんが声を上げた。
「こっちへきな」
 そう言って兄貴の首を掴んでぐいっと自分の方に引き寄せた。そうしたら2人分の席が出来たではないか。そして、ヤンキーなおっかさん、二人連れの親子に「どうぞ」と席を勧めた。兄貴は別段不平を言うでもなく、そのままだまってゲームを続けている。母と娘は礼を言って、空いた席に座った。
 ブーメランの弟はたまに戻ってくるのだが、席がないのを確認するとまたどこかに飛んでいった。
 ヤンキーな親子はいい親子だった。