ロシアの物語

カラマーゾフの兄弟』をまだ読んでいる。てこずっているといってもいい。第2巻にこんな場面が出てくる。
《馬車が動き出し、やがて疾走しはじめた。旅の人となったイワンの心は淀んでいた。それでもまわりの野原や、丘や、木々や、晴れた空を高く飛んでいく雁の群れを一心に眺めていた。(中略)空気はきれいで、さわやかでひんやりし、空は晴れ渡っていた。》
 この日、天気がよかったので空気を入れ替えようと思い、南の窓を開けて読書をしていた。突然、冷たい風が吹いてカーテンを揺らす。その風に驚いたか、肩口にまどろんでいた冬日がうろうろと動いた。
 その瞬間、北の大地の悲しいほど青い空が脳裏に浮かんだ。
カラマーゾフの兄弟』は8月末から9月の頭にかけて、モスクワ辺の小さな町で起きた物語だ。巻末の読書ガイドには、この時期がロシアでもっとも美しい季節で「女たちの夏」という、と書いてある。
 ワシャは出不精だ。その季節のロシア平原に行ったことがない。だから季節感はまったくない。でもね、モスクワってずいぶん北にあるから、緯度でいえば北海道の向こうに1000キロにわたって北に延びる樺太よりもっと北にあるので、夏でも寒いよいよいよい、と思っている。
 ちょうどこの日は冬にしては温かい日で、青い空が高かったのでそんなことを考えたのだろう。ロシアに行きたくなった。