もったいない

 世間では製造日や消費期限の擬装で大騒ぎをしているようだが、元々そんなものを確認しないワシャ母にはまったく関係ない。食品によっては期限を2ヵ月過ぎたものでも平気で食卓に並べる。それを平然と食べ、なんともならないから凄い。
「食品が食べられるかどうかを決めるのは自分の鼻と舌だ」と豪語する。戦中を生きぬいてきた人種は違いますなぁ。
 ワシャ母は赤福が大好物で、伊勢方面に行けば必ず買ってくる。でも、消費期限があるからといってその日までに全部を食べてしまうなんてことはしない。お茶請けで1日に2個と決めて消費期限が過ぎても悠々と食べている。餅が固くなれば餅だけ炙って食べる。消費期限内に甘いものをイッキに食べるほうが健康によくないのだそうだ。そんなもんかね。

 よく行く居酒屋の大将はプロだ。もったいない精神の大将は、ネタを上手に使う。カウンターで飲んでいると人懐っこい笑顔を見せて、
「ワシャさん、このカンパチたべるかい」
と言う。
「刺身がいい」
と答える。
「いや、焼こう。その代わり安くしておく」
 もちろんガラスケースに並んだ魚に消費期限なんて印刷してない。だから大将の感覚が頼りだ。ギリギリまで捨てずに、美味しく食べられる限度で常連に提供してくれるからありがたい。この大将、万一、魚に消費期限が書いてあったってそれを当てにしない。絶対に自分の目と鼻と舌で判断する。それでいいのだ。
 ワシャらは今日もカウンターに座って、ガラスケースの中を眺めつついいネタが古くなるのを待っている。
「大将、もうそろそろこのネタ危ないんじゃないの?」
 大将はニンマリと笑って
「まだまだ大丈夫。だけどそう言われちゃ仕方がない。どうする?」
「刺身」
「あいよ」
 てな具合で、美味しいコチの薄造りをいただくのでありました。めでたしめでたし。