立夏

 昨日は立夏太陰暦では立夏から夏になる。夏になったにしてはずいぶんと寒い日だった。
 この時期の歌として有名なのはこれでしょう。
「春過ぎて夏来るらし白妙の衣乾したり天の香具山」第41代持統天皇の御製歌(おほみうた)である。
《春が過ぎ去って、いつのまにか夏がやってきてしまったらしい。夏になると白い着物を乾すといわれる天の香具山のすそに白い衣がほしてあるのが見えることよ》
 持統天皇は女帝である。彼女は40歳で即位している。その後、夫である天武天皇の遺志を継ぎ、藤原京遷都を成し遂げた。この歌はその藤原宮から東に見える天の香具山に臨んで歌ったものである。藤原京にいつのまにか夏がきた喜びが、女性らしくやさしげに詠まれている。今どきなら「うの花のにおう垣根に ほととぎす早もきなきて 忍び音もらす 夏は来ぬ」と唄うところか。

 持統天皇、歌はさわやかだが政治家としてはなかなか強かだった。天武天皇が兄(天智天皇)の息子(弘文天皇)から武力で皇位を奪った壬申の乱を経て、その後、天武が身罷ると、持統は自らの息子に皇位を継承しようとライバルを蹴落としていく。そのあたりは黒岩重吾『天翔る白日』に詳しい。ライバルを処刑してまで息子を皇太子に仕立てるのだが、病弱な息子はその3年後に没する。持統は自分の血を継ぐ者への皇位継承を諦めず孫の軽皇子に希望を託した。この皇子が後の文武天皇となる。
「春過ぎて……」の歌は、持統が文武に譲位する直前に詠まれている。「ようやく夏がきたのだなぁ」という持統の心根が1300年の時を超えてしみじみと伝わってくるではあ〜りませんか。