首長は気概を持て

 21年前、フィリピンでクーデターが起こった。泥棒政治のマルコス政権が卑劣な不正選挙で勝利を収めたことに抗議し、エンリレ国防相、ラモス参謀総長代行が率いる軍が叛旗をひるがえしたのである。
 エンリレとラモスは共々フィリピンのテレビに出演してアキノ・コラソン支持を訴えた。これに呼応した民衆が基地に向かう鎮圧部隊の戦車の前に立ちはだかり泥棒政治に終止符を打ったのである。これをエドゥサ革命という。さすがフィリピンはいい国柄を持っている。国民自身の手で国を食い物にする泥棒どもを追い出したのだからね。
 この時の二人のテレビ出演が印象的だった。アメリカのウエスト・ポイント陸軍士官学校卒の軍人フィデル・ラモスは薄手の軍服を軽やかにまとっていた。これに対して高圧的な態度で有名な政治家エンリレは防弾チョッキをものものしく着こんでの出演だった。背筋がピンと伸びて爽やかな印象のラモスからは「勇気」を感じ、黒々としたかたまりになっているエンリレに「臆病」を感じたのを覚えている。

 長崎市長が暴徒の凶弾に倒れた。サヨクはこの事件を「反核平和運動への暴挙」に位置付けたいようだが、どう見ても「行政ゴロ」の起こしたベンツのバンパー代の報復でしかないと思う。それにしても背後から銃撃するとは卑劣な犯行であり、断固、許すべきではない。
 この事件を契機にして全国の首長の間で防弾チョッキを着込むのが流行ったりするんじゃないでしょうね。もう物品調達の係を通じて防弾チョッキを発注した首長さんがいたりして(笑)。

 笑い事ではない!
 フィリピンのフィデル・ラモスを見ろ。どんな報復をしてくるかわからない金狂いマルコスを敵に回しているのにも関わらず涼しげなスタイルを貫いた。あれが気概のある人である。政治家は言論によって立ち、自分の信念を曲げてはならないのだ。
 浜口雄幸が首相に就任するにあたって家族にこう語ったという。
「すでに決死だから、途中、何事か起こって中道で斃れることがあっても、もとより男子として本懐である」
 これが政治家の気概である。間違っても、命を惜しんで防弾チョッキを着こむようなことをしてはいけない。それは言論テロに対して恐れをなしているという表明にすぎないのだから。