啓蟄

 2日前に「蜘蛛を助けた」ことを書いたが、そうか、そろそろ啓蟄だったんだ。でも「少し早いな」という印象は拭いきれない。
 通勤に使っている自転車道にあるユキヤナギもすでに花が開き始めている。これも少しばかり早い。いつもなら3月中旬の後半といったところなのだが、チラホラと白い花が現れた。顕かに気象が壊れている。

 日本では環境について喧しい。ゴミを分別しろ、冷房温度を高く、暖房温度を低くしろ、夏はネクタイを締めるな、電気はこまめに消せ、近くに行く時は自転車にしろ、再生紙を使え……日本国民が一所懸命にちまちました環境保護に努めている脇で、中国、アメリカ、インドという大国が経済活動と称して、石化燃料をがんがん燃やし続けている。もうその動向は止められまい。残念ながら環境破壊は今後、加速こそすれ元に戻るなどということはあり得ないだろう。まぁそれも大したことではない。悠久の時間の中で考えれば、直に人間は自分の首を自分で締めて滅亡してゆく。そうなれば地球はゆっくりと環境の改善をしていけばいいのである。大騒ぎをしている原発ゴミだって100万年もほおっておけば無害になる。人類という害虫さえいなくなればどうということもない。
 人類の啓蟄はおそらく400万年前のアウストラロピテクスの出現といえるだろう。彼等がアフリカのサバンナ地帯で狩猟採集生活を細々と営んでいたのは、地球の歴史からいえばつい昨日のことである。生物進化は40億年前に始まった。わずかに1万分の1でしかない。
 2004年に『フューチャー・イズ・ワイルド』という1冊の本が出版された。500万年後から2億年後の地球生命世界の繁栄を予測したものである。その中にこんなことが書いてある。
《人類は6回目の大量絶滅が起こる原因を積み重ねているところだ。これまでの大量絶滅は、気候の変化、火山活動や隕石の地球衝突などで引き起こされたと考えられている。しかし、次の大量絶滅は昔のものと違って、無数の植物や動物の生息環境を侵食していった人間の活動の集積が引きがねとなる。》
 節季は啓蟄だが、地球の歴史の中では、人類はそろそろ巣篭りしたほうがいいのかもしれない。