【一族の長老】
齢82歳のお爺さんだが、訃報を聞きつけるや長野の県境から軽トラックを飛ばして西三河まで駆けつけてきた。葬儀の段取りについて、遺族にあれこれ指示をして「夕方所用があるから」と片道3時間半の道程を戻って行った。翌日、再びやってきてポンと10万円の香典を出した。口も出すが、金も出す。さすが一族の長だけのことはある。
【鼻摘み】
金銭に汚く表裏があるので、一族の良識派から敬遠されている一家がやってきた。仏とは極めて近い親族なのだが、座敷に上がろうともせず庭先で所在なけにたむろしている。葬儀に関われば金を出さなければいけなくなるので、常に距離を置いているのだろう。香典の額は最低でも10万円と踏んだが、香典袋の裏書は3万円だった。おいおいそれじゃぁ仏様とけっこう距離のあるワシャん家と大して違わないじゃないか。葬儀後、香典を計算していたら、この一家の袋から出てきたのは2万5000円だった。さすが鼻摘みだ。
【文句を言う人】
一族の中には必ず些細なことにケチをつける人物がいる。「枕飾りの位置が悪い」「生花の並びが違う」「火葬場へ行く配車が気に入らない」などと自分は何一つ動かないのだが、口は出すという軽輩だ。これでどーんと10万円も包んでくれば一族の長老級になるのだが、こういうのに限って2万円だとさ。
【のんきな親族】
仏が100歳に近いことと、苦しむことなくポックリと逝ったので、葬儀自体に悲壮感はない。超高齢者の葬儀は所によっては赤飯を炊くところもあるそうだから、集まった親族は久々の再会を楽しんでいるようにも見える。
祭壇の前で男衆が車座になって話をしていた。
A「田舎は過疎化が進んで景気が悪いでいかんわ」
B「豊田市のように景気のいいところに合併してもらわんとなぁ」
C「そうじゃそうじゃ豊田が俺たちの村も合併してくれたらいいんじゃ」
D「おうおう、それなら愛知県と岐阜県で合併して道州制にすればよかろう」
C「そうじゃそうじゃ、愛知と岐阜で足りないなら日本全部で合併すればいい」
皆「そうじゃそうじゃ、ワッハッハッハ」
ワシャ「え?」