司馬遼太郎記念館に行ってきた。
展示室に高さ11メートルの大書架があるのだが、その底に立ち、司馬さんの圧倒的な知識を見上げた時、涙がこぼれた。
ここには2万冊の本が並んでいるだけである。司馬さんの自宅にはさらに6万冊が納まっている。手元に残した本だけでこの数だ。司馬さんが読んで処分をした本まで含めるとどれほどの活字が司馬さんの思考の中を通りすぎていったことだろう。想像するだに恐ろしい。
司馬さんの自宅の蔵書を見た出久根達郎氏がこう言っている。
《司馬さんは書物のコレクターではなかった。用ずみの本は払い出し、必要な本を購入し、その書庫は目まぐるしく入れ替わっていたのである。》
大書架の底で気が遠くなった。
開館5周年記念『空海の風景』展である。お目当ての、「司馬さんが執筆前に用意した自筆メモ」をガラスケースの中に見つけた。そこには文献から拾った事象とそれを示す文献名とページ、司馬さんが連想したイメージや感想などが、鉛筆、赤、青のインク、黄色の色鉛筆などでカラフルに書かれてあった。これが司馬さんの思索の痕跡か……暫し、そのメモの前から動けなくなってしまった。
記念館の庭先でもちょっとした驚きがあった。司馬さんが生前執筆をしておられた書斎の西側に飢え込みがある。そこに記念館建築に際して寄付をした人たちの名前を刻んだアルミの記念プレートが設置されていた。もしやと思って探してみれば、その中にワシャの名前があるではあ〜りませんか。もちろん建築資金を寄付したので、あるのは当たり前なのだが、司馬さんがおられたその場所に不肖ワルシャワの名前がひっそりと刻まれておったとは……ちょこっと感動しましたぞ。