余分な記憶

 恐ろしや恐ろしや……
 昨日のことである。居間で息子がテレビを観ていた。ワシャは隣のダイニングの床に寝転がって、中谷彰宏『An Intelligent Man Is Glamorous』(大和書房)を眺めている。2部屋を隔てるフラッシュ戸は全開してあるので、テレビの音が聞こえるが、基本的に音があっても難解な本でなければ気にならない。中谷さんの本ならすらすら読める。ちなみにこの本は日垣さんお勧めの本だ。
 読んでいたら、テレビのCMの音が脳の中に入ってきた。目は活字を追っているのだが、脳裏にそのCMの絵が再現された。「あらら」と思っていたら、コマーシャルが切り替わって、違う音楽が聞こえてくる。そのCMもよく見て知っていたので、CMのキャラクターが脳裏によみがえってしまった。
 いかん!
 シャーロック・ホームズに言わせれば、頭の中の引出しと言うのは有限なのだそうだ。だからいらないものを積めこむと必要なものが入らなくなるという。ホームズの巨大コンテナに比べればチンケな収納BOXでしかないワシャの脳は本当に余分なものを入れ込むスペースなどないのに、「どうするアイフル〜♪」と聞けばチワワのクーちゃんの姿を思い浮かべてしまう。つまりどうでもいいチワワの姿を脳が記憶してしまったのである。その他にもワシャが生きてゆくのにまったく必要のない情報がテレビによって蓄積されていることに愕然としてしまったのじゃ。
 モノは試しでやってごらんなさいよ。テレビの音だけ聞いてどれだけその内容をイメージできるか。その量たるや想像を絶しておりますぞ。
 司馬さんは言う。
「イマジネーションが必要ですね。それにはテレビなんかあまり見ずに、小説をお読みになる方がいいです」
 真剣にテレビを止めようと思っている。